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[2006/09/04] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章6 

その後も、大人たちは、相変わらず挨拶をする程度だったが、部屋の雰囲気は変わ
ったようだった。
ぼくが、ここに連れてこられたときは、大人は、お互いをただ影としか思っていな
いようだったが、今は、相手を気づかうようになっていた。
「おはよう」とか「疲れていないか」という言葉にも、その気持ちがあふれてい
た。
しかし、「おやすみ」という挨拶は、誰も言わなかった。
ほとんどの場合、ここを出られるのは、つまり、家族との交渉がまとまるのは、深
夜から早朝だった。
マルコスさんが言っていたように、こういうことをする者は貧しいので、銀行の口
座を持つことはできないのだ。
いつも現金と本人との交換が、人が寝しずまった頃に行われるのだ。
だから、ここに連れてこられた者は、夜になると、今晩こそ帰ることができるだろ
うという気持ちになって寝つけないというのだ。
ぼくも、寝ようと思って寝たことはない。
パパやママの顔を思いうかべていると、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
マルコスさんは、いつもぼくのことを気にかけてくれて、もうすぐ帰れるからと励
ましてくれた。
ウエスレイじいさんは、金やダイヤモンドの販売が仕事だったらしい。
子供の頃から、お父さんと、金やダイヤモンドを探すために、クイアバやポルト・
ベーリョなどを転々として、金鉱を探した。
ゴールドラッシュは、18世紀や19世紀の話だが、ウエスレイさんのお父さん
は、まだ近くに金脈があるはずだと考えていたのだ。
その冒険物語は、とても面白かった。
原住民や山賊に追われて、大木の上で、何日も過ごしたとき、ジャングルの猿が、
えさを分けてくれたとか、いよいよ捕まって殺されるかというときに、
雷が落ちて、山賊が死んでしまったとかいう話は、どうもぼくを慰めてくれるため
だったかもしれない。
ひげの影に隠れている鳶色の目が、時々、いたずらっぽく光ることがあったから
だ。
その後、見つけた金やダイヤモンドを売る商売で成功したのだ。ウエスレイさん
も、学校には行かず、お父さんの仕事を手伝った。
「パパは、ありがたいものだよ。男として生きることを教えてくれるのだから。
もっとも、ママがいなけりゃ、パパは冒険に行けないがね」と笑った。
そして、「わしが、もう少し若かったら、こんなやつらはやっつけやるのだが」と
言って冒険物語を終わるのだった。
詩を書いているジューニオルさんは、ずっと考えごとをしていて、
ぼくに言葉をかけるということはなかったが、ときおりぼくをまっすぐ見つめる目
は、なぜかやさしかった。
ひょっとしてぼくなどを見ないで、言葉のずっと奥を見ていたかもしれないが、ぼ
くを励ましてくれているようだった。
3人が、それぞれ自分の方法で、ぼくを支えてくれていたから、泣きさけびたい気
持ちをおさえ、またパパと会える望みを忘れないでいることができたのだ。
そして、食事のときにわかったが、ずっと泣いていた女の子も、おばさんもいなく
なった。
猫を抱いたおばあさん一人になった。
かなり太っていて、歩くのが、やっとのようだった。いつも頭は、スカーフでおお
っていた。
おばあさんは、さびしくなってきたのだろうか、ぼくによく話しかけてきた。
「あなたは、どこの国の方?」
「ほんとにかわいそう。パパもママも、どれだけ心配していることかしら?
ここを出たら、あたしの家にいらっしゃい」と手を握ってくれた。
なぜ、すぐにここを出ることができないのかわからなかったが、表情も落ちついて
いた。
「あたしは、ドナ・マリアというの。この子は、フォフォよ」と言った。
すると、茶色のふわふわした毛に包まれた猫は、ぼくのひざにすわった。
「あら、あなただけよ。フォフォが心を許したのは」
「この子は、妹の生まれかわりなの。妹は、若いときに病気になって、離婚したの
よ。それから、ずっと、私と二人でくらしてきたの。
でも、また病気になって、病院でなくなった日に、妹が世話をしていた猫が、子供
を生んだの。5匹生まれて、一番妹に似ている猫を選んだわ。
妹の愛称から、フォフォという名前をつけ、それから、ずっといっしょよ」と、ま
た自分のひざにもどってきた猫の頭をなぜた。
2日ほどして、夕方、4,5才の男の子が連れてこられた。ルーカスという名前ら
しい。
まだ、何が起きたのかわからないようだったが、まわりに知らない人間しかいない
とわかると、ママ、ママと泣いた。
きっと、この子もだまされて、ここに来たのだろう。
ぼくは、マルコスさんにしてもらったように、ルーカスに声をかけつづけた。
しばらくすると、ぼくから離れようとしなかったが、少し落ち着いてきたようだっ
た。
数日前から、2,3人いる部下の様子がおかしくなってきた。
ウエスレイさんやドナ・マリアさんだけでなく、みんなに、ていねいな言葉使いを
していたのに、「早くしろ」とか「言うことを聞け」とか言うこともあった。
今までそんなことはなかっただけでなく、ぼくをつれてきたとき運転していた
デデという若い男は、ぼくらを気の毒そうに見て、ていねいに世話をしてくれてい
たのに。
ひげを生やしたボスのような男は、時々しかいなかった。
そして、ある深夜、みんなベッドにいた。
大人は、それぞれの思いにひたり、ぼくは、ぐずるルーカスをようやく寝さしたと
き、ダーン、ダーンという爆発音が聞こえ、ぼくらの部屋のドアが、ドンと揺れ
た。
ぼくは、何が起きたかと体を起こした。
すると、マルコスさんが、ぼくとルーカスの上に重なってきた。
ウエスレイさんが、ベッドの上段で、「警察が来たのか。そうであればありがた
い!」と叫んだ。
その叫び声を聞くと、ぼくの心臓は、破裂しそうに激しく打った。
そして、すぐにダッ、ダッ、ダッと、人が走るような音が聞こえ、ドーンと何がぶ
つかるような音が続いた。
さらに、ギャーという悲鳴があがった。ドナ・マリアおばあさんの顔が浮かんだ。






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