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[2006/09/11] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章7 

マルコスさんが、ぼくらの上で、守ってくれていたが、ぼくは、頭を少しもちあげ
て、聞き耳を立てた。
しかし、何の物音もしなかった。
今度は、体をベッドに押しつけるようになり、心臓が、ズン、ズンと撃っているの
がわかった。
マルコスさんやルーカスにもわかっているかもしれないと思うと恥ずかしかった。
ルーカスは、ここに連れてこられてから、ずっと泣いていたが、
今は、ただならぬことが起きたことを感じたようで、表情はわからなかったが、
目を大きく見開いて、静かにしていた。
ぼくが、ルーカスを見ると、さらに抱きついてきた。
すると、ルーカスの心臓も激しく打っているのが伝わってきた。
何も起こらないことがわかると、マルコスさんが、体を起こして、「大丈夫か?」
とたずねた。
「大丈夫です」と言って、体を起こした。
すると、顔から、何かが、ぼたぼた落ちた。
すぐに顔をぬぐったが、熱くて、ぬるっとしたものを感じた。
「マルコスさん、ぼく撃たれていませんか」
マルコスさんは、あわててぼくの顔を見て、ねるっとしたものを手に取ってなめ
た。
「大丈夫だ。汗だ」
ぼく恥ずかしくなった。
マルコスさんは、それに構わず、立ち上がって、ドアのほうに向かった。
ドアは、トイレなどのために、いつも鍵はかかっていなかったので、マルコスさん
は、用心しつつ、ドアを少し開けた。
廊下も薄暗いので、よくわからなかったが、人影が動いたようには思えなかった。
マルコスさんは、もう少し開けて、頭を出した。
ウエスレイさんとジューニオルさんも、息をひそめて見ていることだろう。
ウエスレイさんは、「誰か撃たれてないか」と声をひそめて聞いた。
マルコスさんは、ドアをゆっくり閉めてから、「いや、誰もいないようだ。
ちょっと様子を見てくるから、ぼくが出てから、ドアを押さえていてくれないか」
と言った。
ぼくは、立ち上がろうとすると、ジューニオルさんは、ベッドから下りてきた。
そのあと、ウエスレイさんが、「わしも押さえるぞ」と下りてきた。
おじさんは、先ほどより、さらにドアを開けて、廊下に出ていった。
ぼくとルーカスも、二人の側にいた。
多分数分だったのだろうが、1時間も持っているような気がしたとき、小さなノッ
クが聞こえた。
二人は、様子をうかがうように、少しずつ開けた。
人影で、マルコスさんだとわかった。
半身で入ってきたが、そのあとにも、人影がいるのがわかった。
ドナ・マリアさんだった。
ぼくは、急いで、「おばさん、大丈夫でしたか」と聞いた。
「おお、悠太、生きていたのね」と、ぼくを抱きしめてくれた。
「何が起こったのじゃ?」と、ウエスレイさんが聞いた。
「わたしも、わかりませんよ。急に銃声のような音がしたかと思うと、男たちが、
ばたばた走りだしたの。それから、わたしの部屋のドアが、ドンと開いて、
誰かがぶつかる音がしたの。
それから、みんな外に走り出したの。わたしは、恐くて、ベッドに隠れていたの
よ」と、ドナ・マリアさんは、声を震わせて説明した。
「まあ、そこで休んでください」と、マルコスさんは、ドナ・マリアさんの体を支
えて、ベッドに連れていった。
ドア側のベッドをずらして、外からドアが開かないようにしているとき、
ドナ・マリアさんは、「まあ、どうしましょう!フォフォがいない」を大きな声を
出した。
マルコスさんは、すぐに「探してきます」と言って、ベッドを、もう一度動かして
出ていった。
待っている間も、ドナ・マリアさんは、「どうしましょう。フォフォがいなくなれ
ば、生きていけないわ」と泣きだした。
しばらくすると、マルコスさんが帰ってきた。マルコスさんの両手には、黒い影が
あった。
「ベッドの下にいましたよ」と、マルコスさんは、黒い影を、ドナ・マリアさんに
手渡した。
しかし、動かず、鳴き声さえ出していなかった。死んでしまったのかと思っている
と、「大丈夫です。あんまりびっくりして、腰を抜かしただけです。
しばらくすると、歩いたり、鳴いたりできるようになりますよ」と言った。
ドナ・マリアさんは、「まあ、よかった。死ぬまで、お前といっしょだからね」
と、フォフォを抱きしめた。
誰もいないことはわかったが、外に出るドアはあかないので、しばらく様子を見る
ことにした。
ぼくらの部屋のドアが開かないようにして、 ベッドで休むことにした。マルコス
さんは、壁にもたれて休むことにした。
しばらくすると、ルーカスは、ぼくの横で、汗をいっぱいかいて寝た。
2,3時間すると、ノックの音が聞こえた。
みんな緊張して、様子をうかがっていると、「起きろ」という声が聞こえた。
ぼくらが、何も答えずにいると、「ここは危ないので、他に移ることになった。
すぐに荷物まとめろ」という声が聞こえた。声は高ぶっているが、デデだ。
何が危ないのかわからなかったが、とにかくベッドを動かして、ドアをいっぱいに
開けた。
はたして、デデとネッチーニョという、デデの子分のような15,6才の男がい
た。
どうやら、二人とも、ピストルを持っているようだった。
ぼくらは、棚から、自分の荷物を出して、二人についていった。
ドアが開くと、そこも真っ暗だった。デデは、すぐ車に乗り、エンジンをかけた。
これは、ぼくが連れてこられたときの車のようだった。
荷物を、トランクにほうりこんで、ぼくら6人と猫一匹は、後部座席に乗ることに
なった。
しかし、とても狭いので、ぼくは、マルコスさんのひざに、ルーカスは、
ジューニオルさんのひざにすわらざるをえなかった。
もちろん、フォフォは、ドナ・マリアさんのひざの上にいて、少し元気がもどって
きたようで、ニャー、ニャー鳴いていた。
そして、ぼくらを見張っていたネッチーニョが、助手席に乗ると、シャッターが開
き、車は動きだした。
そこは坂になっていて、車はあえぎながら進んだ。ぼくらがいた部屋は、地下室だ
ったようだ。
通りに出て、左に曲がった。ぼくは、かろうじて見える運転席のガラスから外を見
た。
しかし、街中から遠く離れているようで、あかりはあまりなかった。
道は、そう坂になっていなかったが、エンジンは、今にも止まりそうに悲鳴をあげ
た。
しばらくして、ウエスレイさんが、「お前たち、さっきは何があったんだ。警官が
来たのか」と聞いた。
二人は、何も答えなかった。
「包帯をしているが、撃たれたのか」とさらに聞いた。そっと見ると、ネッチーニ
ョの手首に、白い包帯が巻かれていた。
ネッチーニョは、それを隠すようにした。
「わしらは、どこに行くんだ」と、もう一度聞いた。二人とも答えようとしなかっ
た。
「ところで、お前たちに話があるのだが」
「子供たちだけでも、ここで下ろしてやってくれ。お前たちに、それぞれ1万レア
ル(50万円)をやる」
ぼくらは、じっと様子を見ていた。
車は確かにスピードを緩めた。そして、デデはしゃべりはじめた。
「今、兄貴が狙われたんだ。おれたちは、すぐ追いかけたが逃げられた。
でも、誰がやったかわかっているんだ。兄貴が、次のボスになるかもしれないの
で、ねたんでいるやつらがいるんだ」
「おれたちは、兄貴を助けたいんだ。兄貴は、おやじが殺されたとき、ファヴェラ
(貧民街)にいるおれの家族を助けてくれたんだ」
「しかし、お前たちがやっていることは、ほめられたことじゃないぞ」
「おふくろを楽にし、妹を一人前にしたいだけだ」
「それじゃ、子供を持つ親の気持ちは、すこしはわかるだろう?」
「兄貴に聞いておく。これから、すぐに、兄貴のところにいくから」
エンジンは、また悲鳴を上げはじめた。
そして、2,30分行くと、道は、坂道になった。
車は、今にも止まりそうになった。ぼくは、動かなくなることを祈った。しかし、
あえぎあえぎながらも、急坂を登っていった。
そして、左に曲がると、坂は終わったようだったが、舗装が切れて、でこぼこの道
を進んだ。
しかし、あかりは全くなくなり、車に、何かが当たる音が続いた。どうやら、林の
中に入ったようだ。
ヘッドライトに照らされるのは、鬱蒼とした林だったので、どこかに落ちるのでは
ないか心配になった。
車は跳ね、その度に、ルーカスとフォフォが声を上げた。
そして、ようやく車は止まった。





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