[2006/09/18] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章8
何かにぶつかったのか思っていると、助手席にいたネッチーニョが、すばやく外に
出た。
そして、後部のドアを開けて、「みんな出ろ」と言った。
ネッチーニョは、しきりに、今来た方向を見ているようだった。
きっとつけてきた車がないか見ているのだろう。
ぼくも、見てみたが、そこは、真っ暗で、ライトを消して車を走らすことなどでき
なかった。
みんな、ようやく外に出た。驚いた動物の叫ぶ声が、真っ暗な林の中に響いた。鳥
の飛び立つ羽音も聞こえた。
後部座席に、6人も閉じこめられていた上、車が、激しく揺れたので、頭や体を打
ったので、ウエスレイさんやドナ・マリアさんは、最初歩くことさえできなかっ
た。
しかし、ここからは、車では行かれないので、歩くのだという。
どこに行くだろう。デデの海中電灯は、車の先を照らしていた。
そこも真っ暗で、吸い込まれそうな暗闇だった。
ジューニオルさん、ウエスレイさん、ドナ・マリアさん、ぼく、ルーカス、マルコ
スさんの順番で歩いた。先頭はデデで、一番後ろにはネッチーニョがいた。
フォフォは、ドナ・マリアさんのバックの中に入った。しかし、フォフォは、動物
の声を聞くたびに、心細そうに鳴いた。
デデだけでなく、ネッチーニョも懐中電灯を持っていたが、石や木の枝が道に落ち
ていると影と見分けがつかなくてよろめいた。
ぼくは、ドナ・マリアさんに注意し、マルコスさんは、ルーカスを見て、疲れてい
るようだったので抱きあげて歩いた。
ネッチーニョは、ぼくらにあまりしゃべらなかったが、デデの忠実な部下だった。
しかし、道らしい道がなくなるようになって、
みんな進むことに難渋するようになると、急げと言うこともなく、
ウエスレイさんが転んだりすると、いちはやく助けにいくこともあった。
そんなとき、マルコスさんは、ぼくにささやいた。
「グラッサス・ア・デウス!」(ありがたい!)
「えっ」
「アキー・エー・オ・モーホ・ド・コルコヴァード。
コモ・オ・クリスト・エスター・ペルト・ダ・ジェンチ、コン・セルテーザ・ヴァ
モス・セル・サウヴォス」
(ここはコルコバードの丘だ。キリストが近くいるから、必ず助かるぞ)
「コルコバードの丘?ここは、リオデジャネイロですか?」
「そうだ。キリストが、リオを見守っているんだ」と言って、すばやく十字を切っ
た。
ぼくは、背伸びをしたが、木が邪魔して、何も見えなかった。
しかし、2,30分ほど歩くと、道はくねくねと上り坂になりだした。
ときおり、右手に、長い光の帯が見えだした。海岸線を走る道路だという。
そして、ゴォーと地鳴りがしているような音が聞こえた。
深夜だったが、車が走ったり、人々がしゃべったり、音楽を鳴らしたりしている音
が合わさって、ここまで聞こえてくるのだろうか。
もう少し行けば、リオの街が見えるかもしれないと思った。
それで、歩きながら、目を凝らして、そちらを見た。ときおり、木の間に、点在す
る光が見えるようになった。
しかし、デデは、左に曲がり、何も見えなくなった。それとともに、街の音も聞こ
えなくなった。
それにしても、デデは、道もないのに、なぜ進む方向がわかるのだろか。
しばらく、そのまま歩き、また右に曲がった。やがて音がもどってきた。
もう少し行けば、街が見えるだろう。そこで、パパがぼくを探しているにちがいな
い。
胸がどきどきしてきた。しかし、デデは立ちどまった。前方は、森と岩で、さえぎ
られているようだった。
どうしたんだろう。道に迷ったんだろうかと見ていると、デデは、足元を照らし
た。
そこに、幅1メートル、高さ50cmぐらいのコンクリートの箱のようなものがあ
った。
側面の上部をこじあけると、鍵があった。デデは、その鍵を開けた。
そして、ネッチーニョと二人で、ぼくらを見張りつつ、蓋をもちあげた。
今度は、デデ一人で、そこに入ろうとした。そんなところに入れるのかと見ている
と、飛びおりた。そこには、また鍵があり、それを開けた。
そして、ドアを押した。
「さあ、来るんだ」と、頭だけを見せて言った。
そこは、真っ暗で、地獄の入り口のように見えた。
誰も動こうとしないので、デデは、「早く」と急かした。
それで、ジューニオルさんが、蓋の部分に尻をおいて、飛びおりた。そして、頭を
低くして、ドアの向こうに入っていった。
どうやら、そこに階段があり、下におりるようになっているようだった。
そして、マルコスさんが飛びおりて、ウエスレイさん、ドナ・マリアさんを手助け
して、箱の底に降ろした。
階段の下からは、デデが、懐中電灯を照らしていたので、階段が見えた。二人は、
ゆっくり階段を降りた。
マルコスさんは、それを見届けてから、ルーカスとぼくを抱いて降ろした。
地下室に入るドアからは、むっとする湿気が上がってきた。
マルコスさんは、ルーカスを抱いて降りていった。
ぼくは、マルコスさんの服を持って降りた。ドアから、2メートルぐらいで床があ
った。
広さは、光が届かないのでよくわからなかったが、4,5メートル四方ぐらいのよ
うだった。
全員が降りたことを確認すると、デデは、「皆さんをこんな目に会わせて申しわけ
ない」と、ていねいに言った。
「2,3日したら、必ずもどってくる。しかも、皆さんの家族と連絡して、早く帰
れるようにする」とつけくわえた。
そして、二つベッドがあること。毛布も、4,5人分あること。
棚には水や缶詰がかなりあること。別の場所にトイレがあり、水洗ではないが崖に
流せるようになっていることなどを、まるでホテルのボーイのように説明した。
そして、「これを使ってくれ」と、懐中電灯をマルコスさんに渡すと、ネッチーニ
ョが照らす光で、急いで階段を上がり、蓋を閉めた。
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