[2006/09/25] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章9
ドンという重い蓋が閉まる音が部屋に響くと、一瞬暗くなった。
マルコスさんは、あわてて海中電灯をみんなのほうに照らした。
ウエスレイさんも、ドナ・マリアさんもぐったりとしていた。ルーカスは、ジュー
ニオルさんに抱かれて寝ていた。
ぼくも、体が砂袋のようになっているような感じだった。
壁に映っている影は、まるで張りついているかのように動かなかった。
そして、マルコスさんは、部屋を照らしたので、ぼくは、手助けをしようと立ちあ
がった。
すると、ジューニオルさんも、「ぼくも手伝うよ」と声をかけてきた。
振りかえると、ジューニオルさんの影が起きあがろうとしていた。
「ジューニオル、いいよ。君は、二人の荷物を持ってくれたから、
とても疲れているだろうし、ルーカスが泣かないように、いっしょに休んでいてく
れ」と、マルコスさんは言った。
ジューニオルさんは、わかったと言うように、またすわりなおした。
ぼくが懐中電灯を照らし、マルコスさんが部屋を調べた。
みんながもたれている壁の反対側の壁には、柵のないベッドが、二つ並んでいた。
そして、奥の壁には、棚があって、デデが言ったとおり、缶詰や水などがあった。
その横には、毛布があった。
マルコスさんは、早速毛布を取りだし、ベッドに敷いた。
そして、ウエスレイさんとドナ・マリアさんに、ベッドで寝ましょうと言ったが、
二人は、疲れきっていて、起きることができなかった。
そこで、マルコスさんは、体を支えて起こそうとしたから、ぼくも手助けした。
「きみ、すまんね。若いときは、ジャングルの中を、サルのように走りまわってい
たんだが」と、ウエスレイさんは、ようやく口を開いた。
ドナ・マリアさんも、「あたし、もうだめよ」と言って、マルコスさんにもたれか
かった。
フォフォが、ドナ・マリアさんの足元で、心配そうに鳴きながらついてきた。
「いや、大丈夫です。明日、何とかなりますよ」と、マルコスさんは、二人を、ゆ
っくりベッドに寝かせた。
「ここは、どこかわかっていますから」
「どうしてだ?」と、ウエスレイさんが聞いた。
「ここに来るとき時間を計っていたんです。キリスト像に向って45分、コパカバ
ーナ要塞の灯台に向って30分のところです」
「そうか。わしの家が見えるところじゃないか」と、ウエスレイさんは叫んだ。
「そうです。みんな近くにいますよ」と言った。
それから、毛布を床に敷いて、ジューニオルさんとルーカスを寝かせた。
「悠太、すまんが、もう少し手伝ってくれるか?」と、マルコスさんは、立ち上が
って、ぼくに言った。
「はい」
そこで、もう一度、食料を確かめた。
桃、パインナップル、豆煮スープなどの缶詰、ロングライフのミルク、非常食パン
やビスケットなどがあった。
「しばらくは、大丈夫だな」
それから、天井のほうを照らした。天井から3,40センチ下に、幅は50セン
チ、高さ20センチぐらいの窓が開いていた。
反対側の壁から見ると、夜空に、ほのかな明るさがあった。リオの夜景が映ってい
るようだった。
マルコスさんは、「疲れただろう?」と言って、水を少しくれた。
それから、階段を上がり、手や肩で、蓋を持ちあげたが、やはり、かぎがかかって
いて、開かなかった。
下りてきて、「ここは、麻薬組織のアジトだな。部下が裏切らないように、外から
鍵をかけるようになっているんだ」と言った。
「とにかく明るくなるまで休もう」と言って、毛布を敷いてくれた。
窓からは、薄暗い光が入っていた。
月がさすことがあるのだろうか。そうすれば、この部屋は、どんなに明るくなるの
だろうと思った。
マルコスさんは、これからどうするつもりだろう。窓から、何か助けをもとめる合
図を送るのだろうか。
30メートルのキリスト像が立っているコルコバードの丘は、世界中から、大勢の
観光客が来るらしい。
そこから、リオ市や海岸線の風景を見ると、「シターデ・マラビリョーザ!」(す
ばらしい都!)と声を上げるというのだ。
しかし、いや、そうであれば、山のほうは、だれも見てくれないだろう。
ぼくは、パパやママの顔が浮かびそうになると、ここを早く出るためには、マルコ
スさんを助けることだけを考えようとした。
そのとき、ルーカスが大きな声を出した。ねぼけているのかもしれない。
ジューニオルさんが、もう一度寝かしつけている声が聞こえた。
その後、しばらくして眠ったようだった。
チッ、チッという音がした。目を開けると、あたりは、かなり明るかった。
鳥が、窓の近くにいるらしい。
部屋の様子もはっきり見えた。ベッドでは、ウエスレイさんと、ドナ・マリアさん
が、まだ横になっていた。フォフォが、顔だけ上げて、あたりを見ていた。
ルーカスも、髪の毛を顔にくっつけて寝ていた。
その顔を見ると、どんなに悲しい夜だったろうと思った。
マルコスさんとジューニオルさんは、壁にもたれていた。
ぼくが起きたことがわかると、ぼくに、こう言った。
「これは、悠太のことじゃないか」と言って、床にある新聞を手に持った。
「きのう、車にあった新聞を持ってきたんだ」
そこには、小さな活字で、「ガロット・ジャポネース・ハプタード?(日本の少年
誘拐か?)と書いてあった。
しかし、活字はあまり読めないので、マルコスさんがゆっくり読んでくれた。
「日本人の小林信一郎氏が、息子を探している。
二人は、ブラジルに観光旅行に来ていたが、去る4月8日午後5時頃、セントロ地
区北の長距離バスターミナルで、息子の悠太とはぐれた。
混雑する中、サンパウロまでのチケットを買うため、チケット売り場に向うときだ
ったという。
小林氏は、警察とインフォメーションセンターに連絡をし、一晩中、ターミナルを
探したが見つからなかった。
翌日、小林氏は、息子が誘拐されたかもしれないと、もう一度警察に行ったが受け
つけてもらえなかった。
その後も、警察に、何度も足を運んだが、凶悪事件が多くて、捜査できないとのこ
とだった。
日本領事館にも行ったが、門前払いされたという。
そこで、当社に来た。ほぼ毎日来た。
読者の中で、一人でいる日本人の子供を見かけたり、あるいは、誘拐犯のアジトを
知っていれば、当社に連絡してほしい。」
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