[2006/10/02] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章10
それを聞くと、胸がはりさけそうになり、足がぶるぶる震えてきて、立っておられ
なくなった。
足が悪いドナ・マリアさんが、急いで走ってきて、ぼくを抱きしめてくれた。
「悠太、悠太、大丈夫よ。パパは、あきらめずに悠太を探している。
キリストが見守っているから、パパやみんなが、悠太を助けてくれるよ」と、ぼく
を抱きしめてくれた。
ぼくは、「わかりました」と言って、大声で泣くことを我慢した。
そして、そこにすわって、目を閉じた。すると、パパの顔が浮かんできた。
パパの近くにいるのにと思うと、さらに悲しくなってきた。
そのとき、マルコスさんが、パンと牛乳とフルーツを、ぼくの前に置いた。
「悠太、食事をしなさい。2,3日すれば、やつらが来るから、そのとき、ぼく
が、ちゃんと言うから」
ルーカスも、ぼくの横で、自分のパンを食べはじめた。
また、フォフォも、ぼくの膝に乗ってきたので、ぼくもパンを食べて、フォフォに
もやった。
みんな心配してくれているのだ。
ぼくは、コルコバードの丘のどこかに閉じこめられているが、
パパも、自分が高い壁に囲まれているように感じているだろう。
しかし、ぼくは、ぼくを心配してくれている人たちといっしょにいるが、パパは一
人なのだ。
そのとき、ウエスレイさんの声が聞こえた。
「マルコス君、やつらがもどってきたら、わしが、いくらでも金を払うから、ここ
から、みんなをすぐ出すように言ってくれないか」
「足らなければ、わたしも出すわよ」とドナ・マリアさんも言った。
「ぼくも、なんとかなりますよ」と、ジューニオルさんも、小さな声で言った。
パパは、人には、宗教が必要な気がするとよくいっている。
正しい道を歩いているようで、枝分かれしている道があったり、暗くなったりすれ
ば、どこを行けばわからなくなるときがある。
そんなときは、何かを信じる心がないと、何も信じられなくて、どこにも行けなく
なる。宗教とは、そんな心のことだよと言っている。
ぼくには、よくわからないが、今は、パパと会えることを信じて、めそめそしない
ことだ。
そのとき、ドナ・マリアさんの声が聞こえた。
「わたしは案外強いのよ。わたしが話をつけます。
どんな抗争があるか知らないが、いつも一般市民を巻き添えにしたり、みんなに迷
惑かけているじゃありませんか。
どこかのジャングルで撃ちあいをしたらいいのよ」
みんな、ぼくの信じる心を励ましてくれているのだ。
パパは、あの時どうしたんだろう。
ぼくらは、早くチケットを買おうと思って、雑踏の中を進んだ。
リオの長距離バスステーションは、いつも込んでいる上に、
各地でトラックの労働組合がストライキをしたり、それに賛同したバスの労働組合
も間引き運転をしたりしていたので、たいへんな込みようだった。
ぼくらは、こんなときは、いつも手をつないでいた。
前や横の人の荷物が当たるので、手をつないでいるのがやっとだったが、パパに遅
れないようについていった。
突然、斜めから観光客らしき団体が来て、ぼくらとぶつかりそうになった。
ぼくは、それを避けようとして、その人たちと体をぶつかりながらも、何とか前に
出ようとした。
しかし、かなり人の波に流されたようで、パパから、だいぶ離れてしまったよう
だ。
パパも、人の流れを横切るのに精一杯で、ぼくと手をつないでいると思っていた
が、ぼくが横にいないのが、あたりを見まわした。
多分、ぼくが、人の流れに驚いて、柱の陰に立っているかもしれないと思って、
「悠太、悠太」と言いながら、あちこち探した。
話し声や物音が、建物の中で響いて、自分の声が、自分でも聞こえないぐらいだっ
たので、さらに大きな声を出した。
しばらくすると、頭がくらくらしはじめ、考えることさえできなくなったので、そ
こに立ち止まり、状況を見直すことにした。
きっと、悠太は、人の流れは押されて、ちがう方向へ行ってしまったのにちがいな
い。
しかも、建物の中は、同じような風景なので、悠太もどこへ行ったらいいのか迷っ
ているにちがいない。
ここは、街中じゃなくて、バスターミナルの建物じゃないか。
しかも、サンパウロに行くバスのチケットを買うことはわかっていたはずだ。
それなら、先に売り場に行っていると考えるのが順当だ。
悠太なら、もうチケットを買っているかもしれない。
そう思うと、パパは、急いでチケット売り場に向った。
ようやく見つけた売り場は人だかりだった。
ここからどこかに行こうとしている人や、ストライキのために、心ならずもリオに
来てしまったので、早くて目的地に行こうという人であふれていた。
パパは、そこで、ぼくを探したが、やはりいなかった。
それで、リオツールという観光案内所があることを思いだした。
リオツールを見つけ、ぼくのことを聞こうとした。
しかし、ブラジルで、人と話をするときは、ほとんどぼくがしていたので、言葉が
出なかった。
若い女性が、心配そうにパパを見ていたが、英語で話しかけてきてくれた。
パパは、ようやく、息子いなくなったので困っていることを英語で言った。
女性は、困ったような顔をして、ここはリオの案内やホテルの予約をしているとこ
ろだから、迷子のことはわからない」と言った。
しかし、パパが途方にくれているので、「ちょっと待って」と言って、どこかに電
話をかけてくれた。
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