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[2006/10/16] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章12 

少し陽が翳(かげ)ってきたようだった。
店のショーウインドーからの明かりが目立つようになっていた。
道を歩く人も増えていた。そのはしゃぎようから観光客が多いようだ。
きっとセントロにある観光地や、コルコバード、ポン・ジ・アスカール、コパカバ
ーナ海岸などを回って、今から食事を楽しむのだろう。
あちこちのレストランからは、音楽が聞こえていた。
日本人の団体もいた。大きな声でしゃべっていた。パパは、日本語をなつかしく聞
いた。
しかし、日本語で自分の窮状を訴えることができるのに、なぜか日本人を避けて通
りすぎた。
自分が、話をするだけではどうしようもない困難に落ちこんでいると思ったのだろ
うか。
観光客は、陽気なブラジルに来ているのに、誰も、日本人というだけで、そんなう
っとうしい話など聞きたくないだろうと考えたのだろうか。
とにかく、もう一度タクシーをひろって、バスターミナルにもどった。
陽はとっぷり暮れていたが、あいかわらず出入りするバスであふれていた。ターミ
ナルの中も、大勢の人が行き来していた。
ソファにすわり、子供が通れば、ぼくではないか見た。
ときおり警官が通るが、この日本人は、自分の子供を探していることは伝わってい
るようで、あたりをじろじろ見ているのを怪しむようではなく、
声はかけなかったが、気の毒な日本人と思っているようだった。
しかし、警察は、ターミナルにいる人に、ぼくのことを聞くようなことはしなかっ
た。
このターミナルは、24時間バスが発着するので、締めだされることはないが、深
夜になると、人は少なくなってきた。
パパは、少しまどろんだ。それから、あたりを歩きまわった。それを何回か繰りか
えしたが、どこから大きな声と足音が聞こえてきて、朝が来たことを知った。
サンドイッチなどを食べ、しばらくそこにいた。
8時になったので、リオツール行くと、きのうの女性が、すぐにパパに気づき、近
づいてきた。
「心配していました。お子さんは見つかりましたか?」
「いや、警察は、調べると約束してくれなかったが、何か情報があれば連絡すると
言ってくれたので、今から行くつもりです」
「そうですか。わたしたちも、できるだけ気をつけるようにしますから」
「ありがとうございます」
パパは、すぐにタクシーで警察に向った。
カトウという警察官はいなかった。
別の警察官が、「事故などの報告がないので、無事ではないか」と言うだけであっ
た。
まだ人通りの少ない通りを歩いていると、「お前さん、どうしたんだ。きのうから
とぼとぼ歩いて」という、だみ声が聞こえた。
しかし、自分に話しかけてきたのではないだろうと思ったので、少し間を置いてあ
たりを見まわした。
「どこか体でも悪いのか?」
ふと下を見ると、路上にあるいすにすわっている男がいた。茶色に濁った目が、パ
パのほうを見ていた。
ひげが顔半分をおおっているので、年齢は判然としないが、汚れて、破れている服
からのぞく焦茶色の腹から考えて、かなりの老人のようだった。
路上で暮らしているのだろうか。そういえば、所在なく路上にすわっている老人や
子供を見かけることがあった。
「いえ、ちょっと用事があって」
「観光客じゃないのかい?とにかく、ここらは、強盗が隙を狙っているのでな。
朝や晩は、一人で歩かないほうがいいぞ」
「わかりました」
パパは、何が起こったのかわからないまま、ていねいに頭を上げ、そこを去った。
そして、タクシーに乗り、ターミナルにもどった。
ずっと心配してくれているリオツールの女性は、自分がモニカと名乗って、「小林
さん、ここに、ずっといるのは、疲れるし、危ないです。
もしよろしければ、わたしのおばが、リオ市内で、若者向けのペンションを経営し
ているので、聞いてみますが」
パパは、ぜひと答えた。
モニカさんは、すぐに電話をかけてくれた。
「一泊20リアルですが、15リアルにすると言っています」
パパは、礼を言って、すぐタクシーに乗って、そのペンションに向った。
そこは、セントロから少し離れているが、観光客が多いイパネマ海岸の近くにあっ
た。
ホテルのようなビルではなく、普通の家のようだったが、中に入ると、若い人が、
4,5人いた。
大きなリュックを並んでいたので、今から出発するようだった。
フロントにいた中年の女性が、すぐに出てきて、パパを2階の部屋に案内してくれ
た。きっとモニカさんのおばさんなのだろう。久しぶりにシャワーを使った。
その後、タクシーで、もう一度警察に行って、ペンションの電話番号を伝えた。
帰りは、あの不思議な老人が声をかけてきたところを歩きたくなった。
パパは、自分でも言っているように、困ったことが起きたり、誰かとうまくいかな
くなったりすると、自分で高い壁を作ってしまう性格だ。
だから、そんなことが続くと、あちこちに壁ができ、一人閉じこもってしまうの
だ。
そうなると、自分から向こうに行けなり、さらに苦しくなるのだ。
見も知らない人が自分を助けてくれることは、ほんとに感謝すべきだが、自分が今
おかれている状況をどう打開したらいいのかわからなかった。
あの老人は誰なのだろう。ほんとにいたのだろうか、夢だったのだろうか。
しかし、ここだと思った場所には、あの老人はいなく、数人の子供が遊んでいるだ
けだった。
仕方がないので、ペンションに向って歩いた。
10分ほどすると、細道から男がゆっくり出てきた。あの老人だった。
パパは、通行人をかきわけ近づいたが、老人は、目が悪いのか、パパがわからない
ようだった。
老人の前に立つようにすると、パパの顔をしげしげと見て、ようやくわかったの
か、「おや、用事はすんだのかい?」と聞いてきた。
パパは、なんだかうれしくなった。
「いや、日本から来たのですが、バスターミナルで、子供を見失って、ずっと探し
ているんです」
「そりゃ、大事(おおごと)じゃな」
道端により、パパは、バスターミナルにあるリオツールに聞いたこと、警察に相談
に言ったことなどを話した。
「うむ、自宅には連絡をされたのか?」
「忘れていました」
「あわててなさるな」
「・・・」
「しかし、まずいことになっているな」と、老人は考えこんだ。



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