[2006/10/23] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章13
そして、「警察は、どう言っておったかな?」と聞いてきた。
パパは、2,3回行き、捜査を頼んだが、快い返事はもらえなかったことを言っ
た。
「お前さんは、サンドロという名前を聞いたことはないか?」
心当たりのない名前だったので、首をかしげていると、「4,5年まえ、この近く
で、バスを乗っとった男がいてな」と話しはじめた。
「それが、サンドロという若者だった。わしは、子供のころから知っているが、頭
のいい子だった。ただ、帰る家がなかったので、いつも、わしらといっしょにい
た。
しかし、あるとき、教会で大勢の子供と寝ているとき、警官に襲われた」
「警官に?何か悪いことをしたんですか?」
「いや、ブラジルの警察はそんなもんさ」
「大勢の子供が殺されたが、サンドロは生きのこった。
それから、悪いこともしたが、大きくなってサッカー選手になって、貧しい子供た
ちを助けだしたいという考えを持っていた。
家のない子供は、自暴自棄になって、シンナーをやったり、強盗を働いたりするし
かなかった。
それで、毎日練習して、めきめきうまくなり、あるチームにスカウトされるところ
だったが、膝を痛めてしまった。
わしは、ふさぎこんでいるサンドロに、ガリンシャの話をしたもんだ。
生まれつき左足が3センチも短かったが、ドリブルを始めると、世界の誰も止めら
れなかったさ。ペレ、ロナウドもみんな貧しかった。
サンドロは、もう一度がんばったが、無理がたたって、走れなくなった。
わしが、あんななことを言わなかったら、あいつは、頭がよかったので、他にする
ことはいくらでもあったんだ」と声を詰まらせた。
「サンドロは、早く子供たちを救いだしたいとあせっていたんだな。
観光客に物乞いしたり、路上で寝たりしている子供たちを見たくなかったんだ。
勉強をさせて、その中の誰かがうまくいけば、みんな、こんな生活から抜けだせる
と思っていたんだ。
そのために、金持ちから、余っているものをちょっともらおうとしたばっかりに、
あんなことになって・・・」
「どうなったのですか?」
「結局、サンドロは警官に殺された」
「サンドロも悪いことをしたが、もっと悪いものもあるような気がしてな。
サンドロは、事件の2、3日前、『じいさん、もうすぐうまいものを食わしてやる
から』と言っていたのが忘れられん」
「いやあ、子供を探しているお前さんに、こんなことを聞かせてすまんことをし
た。
ブラジルでは、警官は、仕事がなく、仕方なしになった者が多いので、お前さんの
役には立たんことを言いたかっただけじゃ」
そのとき、子供が、その老人の後ろにいるのに気がついた。
老人もわかったようで、振り向くと、「ゼジニョか」と言った。
すると、10才ぐらいの、汚れた服を着て痩せた子供があらわれた。
「これは、ゼジニョといって、さっき話したサンドロが一番かわいがっていた子供
だよ。
ゲームがうまいので、サンドロは、ゼジニョにコンピューターを勉強させたいとい
っていた」
「ゼジニョ、この人に挨拶しろ」
すると、その少年は、恥ずかしそうに頭を下げた。パパは、手を出して、「こんに
ちわ」と言った。
少年も、手を出して、小さな声で「こんにちわ」と答えた。
「忘れておった。わしは、セウ・ペードロだ」と、老人が名乗った。
パパも、すぐに名前を言い、「助けてくださってありがとうございます」と言っ
た。
「ブラジルの警察は、人を探してくれんから、他に当たったほうがいい。
まず日本の領事館に行ったほうがよかろう。とにかく味方を増やすことだ」
「わかりました」
「わしらも、いつも街中にいるので気をつけてみておくよ。ゼジニョの仲間にも聞
いておこう」
パパは、老人に、日本領事館は、セントロのフランゴ地区にあるらしいことを聞い
て、タクシーに乗った。運転手も、かなり迷ったが、ようやくわかった。
パパは、建物の中に入り、面会を求めた。日本人の領事館員は、パパの話を真剣に
聞いてくれたが、パパの期待している返事ではなかった。
「リオデジャネイロは警戒情報が出ています。
ブラジルの中でも、特にリオやサンパウロは危険な地域です。
リオには、ファベーラという貧民街が、200以上ありまして、麻薬組織などが暗躍
しています。
時々内部抗争があり、市民が巻き添えになります。最近も、小学校にいた生徒に、
流れ弾が当たるという事件もありました。
警察が、道路を封鎖して、捜索しているのですが、麻薬組織の犯罪は悪化の一途を
たどっています。
また、強盗が頻発していまして、一般市民が犠牲になることも増えています。
特に朝方や夕方はとても危険です。また、海岸などでも危ないです。
今後は、タクシーを利用してください」
「いや、今教えてほしいのは、どうしたらいいのかということです。子供を探して
いるのです」
「お気の毒とは思いますが、私どもには、どうすることもできないのです。
警察に行かれてはどうでしょう?」
「警察で、領事館に相談するように言われてここに来たんです。
わかりました。とにかく、ここに滞在していますから、何かあったら連絡してくだ
さい」と席を立った。
領事館を出てたが、どこに行くべきか、何をするべきかわからなくなったので、
ランチョネッチといわれる街角にあるスタンドに入った。
コーヒーを飲んでいると、どこからか日本語が聞こえてきた。
日本人の青年が誰かとしゃべっていた。
「いや、『地獄で仏』とは、このことだよ。もう日本に帰ろうかと思ったけど、き
みと友だちになれて、しばらくここにいるよ。
実は、リオに着いてすぐに強盗にあってさ。金は、そう持っていなかったんだが、
カメラをもっていかれてね。
追いかけようとしたが、強盗にあったときは、抵抗をすると撃たれたりするぞと注
意されていたので、3人組が逃げていくのをそのまま見ていたよ」
パパは、ママに電話をかけようと思った。
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