[2006/11/06] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章15
ドン、ドンという音はさらに高くなった。
その音は、パパの頭の中で、金属がぶつかる音から、木を叩く音に変わった。
パパは、重い目をようやく開けてあたりを見た。しかし、光がまぶしく目を開けて
いられないほどだ。
しかし、ドン、ドンという音は、とどまることなく続いていたので、目を開け、光
の向こうにあるものを見た。
そこは船のエンジンルームなどではなく、どこかの部屋のようだった。
その間にも、音はたえまなく聞こえていた。パパは、意を決して起き上がり、その
音が鳴る方向へよろめきながら行き、ドアを開けた。
そこには、中年の女性が、心配そうな顔をして立っていた。
最初、この人は誰だろうといぶかったが、ようやくモニカさんのおばさんである、
このペンションのオーナーだということがわかった。
オーナーは、ほっとした表情をした。
「何かあったのじゃないか心配しました。
でも、たいへんな汗。何か悪い夢を見ていたのね」
パパは、あれは夢だったのか、それならば、もう終わったか、
今も続いているのかさえ理解できなかったので、オーナーの言葉に答えないで、そ
の場に立ちつくしたままだった。
「そうそう、日本から電話です」
パパは、礼を言い、手すりを持って階段を降り、フロントに急いだ。
電話に出ると、ママからだった。
「あれからすぐに警察に行ったんだけど、外国のことはどうしようもないというこ
とだったので、外務省の領事局に問い合わせをしたの」
「どうだった?」
「犯人から、身代金などの条件を連絡してきているかどうか聞かれたわ」
「悠太が誘拐されたかどうかということなのか?」
「いや、ブラジルでは誘拐事件がとても多いらしいの」
「何万人もいるバスターミナルで、そんなことが起きるだろうか?」
「外務省は、リオデジャネイロの警察に相談をしたほうがいいと言っていた。
でも、領事館にも連絡をしてほしいと頼んできたので、もう一度行ったほうがいい
かもしれないわ」
「わかった。そうする」
「ママ、体のほうがどうか?」
「どうしたの?こんなときに」
「いや、1ヶ月ほど前マナウスから電話をかけただろう、あれが最後の電話だと思
った。
ブラジルに着てから、何回か電話をかけたが、ブラジルでは、
どんな問題が起きても、二人で解決しようと言っていたので、悠太には電話をかけ
たことは黙っていた。
それが、こんなことになってしまって。悠太にも、電話で話をさせたほうがよかっ
た」
「悠太は、こんなことで負けない子よ」
「パパも、とにかく落ちついて」
「ありがとう。のぞみには言ったのか?」
「いや、まだ事情がわからないので言っていない」
「じゃあ、また連絡を待っているよ。今から、もう一度出かけてくる」
パパは、シャワーを浴びて、出かける用意をした。
フロントで、パパを見つけたオーナーが、何か食べていけばとすすめてくれたが、
あとで食べますと言って、外に出た。
頭がくらくらしていた。
あの夢はなんだったのだろう。
悠太は、何かかんちがいをして、まちがったバスに乗っただけなのだろうか。
ブラジルでは、今までそうであったように、長距離バスは、何日もかけて、何百キ
ロ、何千キロ先の目的地に行くことがある。
もし、疲れて眠ってしまっていたら、長い間気がつかないこともあるだろう。
そうなれば、悠太に気づいた運転手が、リオのターミナルに連絡してくれるだろ
う。
それで、もう一度ターミナルに行こうと思い、タクシーに乗った。
タクシーは、もう何回も往復した幹線道路を通ってターミナルに着いた。
すぐにリオツールに向い、モニカさんに、ペンションを紹介してくれた礼を言おう
としたが、今日は休んでいた。
しかし、他の職員も心配してくれていて、「日本人の子供が行方不明になっている
ので、見かけた人は連絡をしてほしい」というポスターを作っているところだ。
何かあれば、すぐに電話をするからと言ってくれた。
パパは、ていねいに礼を言い、新聞社を回ることにした。
どこの新聞社も、あいかわらずピストルを持った警備員がいて、取りついでくれな
かった。
しかし、以前とちがって、話をしてくれる警備員もいた。
「最近は、新聞記者が誘拐されることが増えてきたんだ。新聞社は、すぐに金を払
うからな。
だから、部外者を入れることができないんだ。
でも、知りあいの新聞記者に、どうすればいいか聞いてやろう。でも、今は仕事中
だから、今度来てくれ」と言ってくれた。
それから、警察にも行った。
玄関で、カトウという警官に会いたいのだがというと、すぐに連絡を取ってくれ
た。
カトウという警官は、奥から急ぎ足でやってきた。
「どうなったのか心配していました」
「いや、まだ見つかっていません。だから、何か情報がないか知りたくてきまし
た」
「こんなことを言うと、びっくりされるかもしれませんが、
毎朝ストリートで死んでいる大人や子どもがいるので、トラックで引きとりに行く
のが、われわれの仕事です。
しかし、今のところ日本人の子供はいません。
だから、あなたの子供さんは生きています。そう時間が取れないのですが、やるだ
けのことはやります」
どこに行っても、自分の苦しみをわかってくれる人ばかりだったので、
狭い壁に閉じこめられている気持ちがなくなり、どんなことにも向っていけるよう
な気がしてきた。
ペンションに帰ってくると、オーナーがすぐに駆けより、「小林さん、電話があり
ました」と言った。
「誰からでした?」
「タクシーの運転手だと言っていました」
「運転手?」
「番号を聞いているから、電話をしましょうか?」
「お願いします」
すぐに相手が出たらしく、パパにかわった。
おそるおそる話をしていると、電話をかけてきたのは、最初にこのペンションに来
たときに乗ってきたタクシーの運転手ということがわかった。
自分のいとこが新聞記者をしているので聞いてみたら、会ってもいいということだ
ったので連絡をしてくれたのだった。
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