[2006/11/13] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章16
その新聞社は、毎日のように行っている新聞社の一つだった。パパは、今からその
新聞社に行くと伝えた。
運転手は、「OK,連絡をする」と言って電話を切った。
受話器を置くと、すぐにタクシーに乗って駆けつけた。
先ほど警備員が話をしてくれた新聞社ではなかったが、そこの新聞社の警備員も心
配してくれるようになっていた。
パパは、マンゲイラという記者を呼んでほしいと言った。
記者の名前を言うと、その警備員は、よかったなという顔をして、すぐに連絡して
くれた。
記者はすぐにあらわれた。大きな男で、パパの手をぐっと握った。
その手から、いとこの運転手から、大体聞いていることはわかった。
1階の奥にある小部屋に案内し、「たいへんなことになりましたね」と言った。
そして、ノートを出して、メモを取るようになると、その表情は変わった。
「まず、その時の様子を話してもらえませんか?」
パパの話を一通り聞くと、「どうしたんだろうな。誰かから連絡が来ていません
か?」
とたずねた。
「連絡?」
「たとえば金を払えとか」
「いいえ」
「それじゃ、誘拐ではないのだろうか」
「連絡があれば、私も動きやすいのですが」
「ブラジルでは、いきなり赤信号で止まっている車に乗り込んだり、
自宅の前で待ちぶせをしたりして、被害者をピストルで脅して、自宅や銀行に連れ
ていって、金を奪い取る犯罪が多いのです」
「しかし、あれだけの人間がいたのですから」
「行方不明も、路上で生活している子供にはありますが、旅行中の子供はめずらし
い」
「・・・」
「とにかく、ターミナルだけでなく街などで、日本人の子供を見かけた人はいない
か書いてみましょう」
パパは、ようやく一筋の光明を見出したことを感じ、新聞社を出た。
タクシーで、ペンションに帰るとき、何気なく街中を見ていると、
大勢の人が行きかっている通りに、セウ・ペードロという老人と子供が数人いるの
を見つけた。
みんな通りにすわって、何かしゃべっているようだ。
中には、笑いころげている子供もいる。多分ゼジニョという子供もいるのだろう。
老人と話したのは、つい2,3日前だったはずだが、ずっと気を張りつめていたの
で、遠い昔のように思えた。
しかし、老人を見ると、昔からの友人に出会ったような気持ちになったのだ。
パパは、無性に老人と子供たちと話をしたくなった。タクシーを降りて、そちらに
向った。
途中、ランチョネッチによって、サンドイッチを山盛り買った。
前に会ったとき、老人は、わしらは臭いので、みんなに嫌がられるし、
子供たちも観光客にまとわりつくので、警官や役人に追い立てられるのだと言って
いたから、食べるものを持っていけば、喜んでくれるだろうと思ったのだ。
どこかで、ホームレスが、金をせびってきても、絶対に渡さないことと注意をして
いたが、今は、おみやげを持って、友人を訪ねるような気持ちだった。
パパが、雑踏をかきわけ、彼らに近づいていくと、子供の一人が、老人に何か言っ
た。
顔は、はっきり覚えていないが、きっと、あれがゼニニョなのだろう。
老人は、手を上げ、「おう、ユウタは見つかったかい?」と聞いてきた。
「いや、まだです。あちこちに頼んでいるですが」と答えて、サンドイッチを渡し
た。
老人は、子供たちに、サンドイッチを分けるように言った。
子供たちは、礼を言うと、ササンドイッチを食べはじめた。
老人は、「子供たちは、日本人と中国人、韓国人の区別がつかないので、
アジア人の子供らしいのを見つけると、家族がいてもかまわず、『ユウタ、ユウ
タ』と叫びながら近づくものだから、警官につかまった者もいるぐらいだ」と笑っ
た。
「ありがとうございます」
「かまわないさ。みんな学校に行っていない連中だから、時間がありあまっている
のだ。
静かにしているなと思うと、コンピューターゲームばかりしている」
「でもな。親がいない子供が多いので、おまえさんの愛情にあこがれているところ
もあるようだ」
「これからも、あきらめずに探すことだな」
大勢の観光客が、パパや老人、子供たちの様子を不思議そうに見ながら通りすぎて
いた。
きっと、なぜ日本人の旅行客が、ホームレスの老人や子供たちといっしょにすわっ
ているのか、しかも何を楽しそうにしゃべっているのかと思っているだろう。
しばらくして、パパは、ペンションに帰った。
そして、ママに電話をした。
今日のことを話し、ブラジルの人に支えられている喜びを伝えた。ママも、日本で
やれることはやっていくと言った。
翌朝、ノックの音が聞こえたので、ドアを開けると、オーナーが立っていた。
「おはよう。あなたのことが新聞に載っているよ」と新聞を差しだした。
小さな記事ではあったが、オーナーに助けてもらって読むと、
「日本人の子供が行方不明になっている。
どんなことでもかまわないから、何か気がついたら連絡してほしい」という内容だ
った。
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