[2006/11/20] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章17
ペンションで、朝食を取っているとき、日本領事館から電話があった。
「小林さん、事情を調査するよう日本政府から連絡が来ました。
つきましては領事館にお越しください」という内容だった。
駆けつけてみると、若い領事館員は、「ご心配なことでしょう」と切りだした。
この間(かん)の様子を聞いた上、今日の新聞を読んでいたらしく、もしかしたら
何か情報が来るかもしれませんと言った。
「脅迫文などが来ておれば、警察も動けるのですが、小林さんもご存知のように、
ブラジルの警察は、日本のように捜査してくれないのです」
その後も、誘拐でもされていたら、話は進むのにという口ぶりであった。
しかし、ここで怒って席を立っても、何も始まらないのだからと思い、
とにかく警察に連絡をしつづけてくださいと頼んで領事館を出た。
ペンションにもどってくると、オーナーが飛んできて、また電話がかかってきたこ
とを知らせてくれた。
新聞を読んで、何か情報が来たのか思ったが、心配してくれた警備員から聞いた、
別の新聞社の記者だった。今から来てくれるらしい。
1時間ほどして、記者がやってきた。体が小さかったが、握手は、とても力強かっ
た。
そして、パパの気持ちを一生懸命知ろうとしているのがわかったので、どうしてブ
ラジルに来たのですかという質問にていねいに答えた。
翌日の新聞に、その記事が載った。
その日、ペンションに、二人の男が来た。
自分は、ニッケイ新聞のヤマモトという記者で、もう一人は、リオ日系協会のクニ
マツだと名乗った。
なぜ日系協会の人が来たのかといぶかっていると、クニマツという人は、
自分の父親が、新聞を読んで、小林さんに、ぜひ会いたいのだが、
90才を過ぎていて行くことができない。そこで、自分が、代わりに来たのだと言っ
た。
それによると、自分たちは、移住をするとき、準備に忙しく、子供たちが、何を考
えているかまで頭が行かなかった。
子供は小さくても必要な労働力だったし、日本にいるときより幸せになるのだから
ということしか考えなかった。
今考えると、子供にとっては、友だちがいっぱいいる故郷を離れるのは、どんなに
辛いことだったろう。
そこまで言うと、クニマツという人も、田中君と同じ状況だったので声を詰まらせ
た。
そんなことは遠い昔になってしまったが、小林さんは、それを覚えていてくれて、
ただ成功した、失敗したということだけでなく、家族が助けあって生きるというこ
とを、自分の子供に教えたいために、わざわざブラジルに来てくれた。
それなのに、こんなことになって、誠に申し訳ない。私たちも必ずお手伝いをする
から、ぜひがんばってほしいということだった。
パパは、「いや、自分のことで、息子をこんな目にあわせて」と言うばかりだっ
た。
「フォフォ、フォフォ」と、ルーカスが、ドナ・マリアさんの猫を呼んでいる。
ルーカスは4才らしいが、あまり泣かなくなっていた。
今の自分たちが陥っている苦境は、大人にとっても困難だが、大人が懸命にこの苦
境を打ちやぶろうとしているのがわかっているみたいだった。
だから、ぼくだって、頭がおかしくなるほど苦しいときがあるけど、ルーカスの手
前、耐えているのだ。
パパも、ぼくを探しているだろうし、今頃は、ママも知っているだろう。だから、
ぼくさえがんばればいいのだ。
ルーカスのパパやママも、どんなに心配しているだろうか。
もちろん、マルコスさんやドナ・マリアさん、ウエスレイさん、ジューニオルさん
の家族もそうだろう。
これだけの家族が、ぼくらを探しているのだ。きっとぼくらを見つけてくれるはず
だと思った。
しかし、何が起きているのだろう。
誘拐といっても、お金を取ってしまえば、人質はじゃまになるので、すぐ開放され
るのにというのが、みんなの意見だった。
デデやネッチーニョたちは、あのひげを生やしたボスに何か起きたので、ぼくらを
ここに連れてきたのだ。
その時、2,3日で帰れるだろうと言って、どこかへ行った。
もう6日も立っているのに、誰も来ない。食料が少しずつなくなってきている。
マルコスさんは、自分はあまり食べないようにして、ぼくらにはちゃんと食べさせ
てくれる。
もちろん、フォフォにだって分けている。
壁の上にある窓からは、ほとんど外が見えないので、マルコスさんは、棚を立てか
けて登った。
しかし、そこから見えるのは、空とジャングルだけだった。ただ、小鳥や動物の鳴
き声に混じって、リオという大都会の音が聞こえていた。
ドナ・マリアさんは、コルコバードの丘には、大きなキリストの像が建っていて、
わたしたちを見守ってくれているのよと言って、コルコバードの丘の絵を描いてく
れた。
手を広げたキリストの像、いりくんだ海岸に広がっているリオの街、大西洋に浮か
ぶ数々の島。
ここは、神様が作ったのよ。だから、神様を信じて待ちましょと、ぼくとルーカス
を抱きしめてくれた。
ウエスレイさんは、自分の荷物を枕にして寝ていた。
ジューニオルさんは、マルコスさんの手伝いをするとき以外は、本を読んだり、何
か書いていた。
もちろんぼくも、二人を手伝ったり、ルーカスの相手をした。
フオフォは、ルーカスが大好きのようだった。いつもルーカスの膝にいた。
フォフォも、今辛いことが起こっていて、ルーカスを慰めようと思っているのか知
れなかった。
マルコスさんが、ドナ・マリアさんに、「フォフォを窓から出しても帰ってくるで
しょうか」と聞いた。
「大丈夫よ。でも、どうして?」
「フォフォに助けてもらわなくてならないかもしれないのです」
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