[2006/11/27] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章18
「今、ここを出られるのは、フォフォしかいないのです」とジューニオルさんが口
を挟んだ。
ジューニオルさんは、ここに連れてこられる前からも、あまりしゃべらなかった
が、
マルコスさんの手伝いをするようになって、みんなに声をかけるようになってい
た。
特に、ルーカスを自分の子供のようにかわいがった。
今では、食料の配分を一人でしていた。
そして、仕事が終わったときは、じっとすわっていたが、その目は、深い海のよう
な目をしていた。
きっとそこには、考えることはいっぱいあるのだろうと思った。
「でも、フォフォは、ちゃんとできるかしら」と、ドナ・マリアさんは、まだ心配
そうだった。
ルーカスさんとジューニオルさんは、この2,3日、なんとか脱出できないか一生懸
命調べていた。
出入り口は、重い蓋で閉められている上に、鍵がかかっているので、二人でもちあ
げようとしたができなかった。
天井近くにある狭い窓を、何かで壊そうとしたが、石のまわりにセメントで塗り固
められているので、思うようにいかなかった。
マルコスさんは、体が小さくなったフォフォを抱いて、棚で作ったはしごを登っ
た。
そして、「フォフォ、外を見てきてごらん」と、窓のところにおいた。
ぼくは、「このままフォフォが帰ってこなかったら、どうなるのだろう」と不安に
なった。
ドナ・マリアさんも、そう思ったのだろうか、心配そうにフォフォを見上げてい
た。
フォフォは、ニャー、ニャーと鳴いて、外をうかがっているようだったが、動かな
かった。
しかし、しばらくして歩きだした。
マルコスさんは、窓からフォフォを見ていたが、視界が狭いので、すぐに見失った
らしい。
みんな黙っていた。5,6分すると、ニャー、ニャーという声が聞こえた。
マルコスさんは、「よしよし、ご苦労さん」と言って、フォフォを抱いて下りてき
た。
「動物に襲われないかしら」と、ドナ・マリアさんは、フォフォの頭をなでながら
一人ごとのように言った。
「気をつけて出しますよ」とマルコスさんが答えた。
なぜ、マルコスさんが、フォフォを外に出すようにしたのかわからなかったが、
仲間の一人が、とりあえず外に出られる自由があるのがわかると、
心に重くのしかかった重石(おもし)に絶えられるように思えた。
みんなの心に、あきらめなかったら、必ず助かるという気持ちが生まれてきたよう
だった。
水のボトルは、まだ3本残っていたが、窓から鍋を出して、スコールの雨を貯める
ことにした。
食料は、パンや缶詰などが少し残っていたが、できるだけ我慢して、みんなで元気
でここを出ようと、ジューにオルさんはぼくらに声をかけた。
その後も、毎日フォフォを外に出した。必ず5,6分で帰ってきた。
しかし、ある日、10分過ぎても、窓で、ニャー、ニャーともどってきたことを
知らせる声がなかったので、フォフォに何かあったのではないかという不安がみん
なを襲った。
マルコスさんは、窓から、「フォフォ、フォフォ」と大声で呼んだ。
しかし、フォフォの鳴き声は聞こえなかった。
「フォフォは、どこへ行ったの?」ルーカスは、ぼくにたずねたが、「ちょっと散
歩が長いだけだよ」と答えるしかなかった。
そのとき、窓をのぞいていたマルコスさんが、「フォフォが帰ってきた」と叫ん
だ。
ぼくらは、立ちあがった。
「何かくわえているぞ」とマルコスさんは、ぼくらに伝えた。
何だろうと思っていると、マルコスさんは、フォフォを抱えて下りてきた。
何か大きなものをくわえていた。
「鳥だ!」
「ぼくらのことを心配してくれていたのだ」
「自分も、お腹がすいているだろうに」
「お前は、ほんとによくやったよ」
フォフォは、ジャングルの中で悪戦苦闘したのか、毛には草や土などがついてい
た。
ぼくとルーカスは、それを取ってやった。
フォフォは、自分がしたことが予想以上に賞賛されたことに戸惑っているように、
ドナ・マリアさん抱かれて、ニャー、ニャー鳴いた。
その日、ジューニオルさんは、みんなに聞かせたい詩ができたと言って朗読した。
ノース、プレーゾス・ナ・カヴェルナ・ド・コルコヴァード
ノッソス・ハプトーレス、フォーラス・ダ・レイ・ケ・アージェン・ノ・ヒオ
アゼル・ダ・コインシデンシシア?デウス・ノス・ぺナリザンド?
セカーランーセ・アス・ラーグリマス・ド・アビスルド
セラー・ケ・ヘスタ・ソメンテ・オ・デゼスぺロ?
ナウン、オ・マール・ブリーリャ、オス・パッサロス・カンタン・イ・オ・カリオ
カ・
ソッヒー・アオス・ペース・ド・クリスト・ヘデントール
デウス・ノス・アベンソエ、アッシン、プレザモス・ポル・トダ・ア・エテルニダ
デ・
オ・ノッソ・セニョル
われら、コルコバードの丘の岩窟(がんくつ)に囚(とら)われたり
リオに跋扈(ばっこ)せし無法者たち、われらをかどわかすものなり
そは偶然の災厄か、はたまた神に与えられし罪科(つみとが)か
不条理の涙も涸(か)れはて、絶望の思いに伏れふすのみか
否(いな)、十字架を背負いしキリストの足元で、海は輝き、小鳥は歌い、カリオ
カは笑う
われらにも神の加護を与えたまえ
さすれば、永久(とわ)に神を讃えるものなり
それを聞いていたドナ・マリアさんが、「あなた、すばらしいわ」と感激の声を上
げた。
そのとき、「そんな詩はくそくらえだ」という声がした。
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