[2006/12/04] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章19
ウエスレイさんだった。ぼくらは、床に寝ているウエスレイさんを見た。
この2,3日、体の調子悪くなって、横になっていることが多かった。
大きな声を出したためか、ハア、ハアと息を大きくしていた。しかし、目は、大き
く見開かれていた。
マルコスさんは、水をコップに入れてもっていったが、「わしのことはほっといて
くれ」と、手で払うような格好をした。
みんな黙っていたことが、ウエスレイさんをさらに興奮させたのか、
「フォフォを見習え。詩なぞ腹の足しにもならん」と叫んだ。
しかし、詩を朗読したジューニオルさんを見るのではなく、岩の天井のどこかを見
ているようだった。
「そんな言い方をしなくてもいいのに」と、ドナ・マリアさんが、ウエスレイさん
の大きな声にびっくりしているフォフォを抱きながら言った。
「言葉だけの人間は役立たずだ。じゃあ、お前は、何をできるのかって聞きたいん
だろう?
こんなことは、いくらでもジャングルで経験してきたんだ。
インディオに追いかけられて、洞穴に逃げこんだが、そのとき、転んで足を折っ
た。
おやじが添え木をしてくれた。そこに2,3日いたが、危なくなったので、わしら
は、そこを出た。
我慢をして歩いていたら、いつのまにか直った。
元気になったら、わしが、ここを出る方法を考えてやる」と、ウエスレイさんは、
起き上がって言った。
「ウエスレイさん、みんなで助けあったらいいんですよ。
そうすれば方法が見つかるはずです。もし希望を失いそうになったら、詩を読め
ば、
勇気がわいてくると思います。そうだなあ、ジューニオル?」と、マルコスさん
は、ジューニオルさんのほうを見た。
「そうだと思いますが、今はもっとすべきことがあるのに、詩なんか作っていたぼ
くが悪いんです」と、ジューニオルさんは、申しわけなさそうに言った。
「フォフォは、わたしたちの話がわかっているから、何か役に立とうとしたのよ」
と、ドナ・マリアさんも、勝ち誇ったように言った。
「いや、わしは、詩人とはダイヤモンドより輝く言葉を作るものだと言いたかった
だけだが」と、ウエスレイさんは、小さな声で言った。
ぼくは、「パパは、『ジャー・ヴィー・ツゥード・キ・ウン・オーメン・
ポデリーア・ヴェール・ナ・ヴィーダ(見るべきほどのことを見つ)」という言葉
が好きです』と、思わず言っていた。
「悠太、それは、どういう意味なんだい?」と、マルコスさんが聞いてきた。
ぼくは、パパが、アマゾン川の上でバチスタさんたちに話をした内容を思いだしな
がら、その言葉を残した平知盛についてしゃべった。
「平家にあらずんば、人にあらず」と栄華を極めていた平家が、
源氏との戦いに負けたことが、「この世のものは、すべて変わるものである」とい
う
諸行無常の考えと結びつき、この言葉は、日本人の心に響くと、パパに教えてもら
ったとおりに話した。
みんな、黙って何かを考えているようだった。
「すると、ぼくらも、必ずここを出られるということではないですか」と、ジュー
ニオルさんが、笑顔で叫んだ。
「わしは、おやじの言うことをよく聞いて、ここまでやってこられた。
しかし、息子たちが、わしの言うことを聞かないのは、
わしの言い方に問題があるのじゃろか」と、ウエスレイさんが言ったので、その場
の空気は、一気に柔らかくなった。
ルーカスも、それがわかったようで、フォフォとはしゃぎまわっていた。
ぼくも、役目を無事に終えたようで、とてもうれしかった。
あくる日、ジューニオルさんは、詩を壁に貼った。
ムイト・アレン・ドス・ミリャレス・デ・キロメトロス・ダキ、フィカ・オ・パイ
ース・ド・ノッソ・アゴラ・イルマウン・フラテルノ
ノ・パッサド、アリ・エスタヴァ・ウン・ノブレ・ジョヴェン・フォルチ・イ・ヴ
ァレンテ・ア・ルッタール
アポス・ア・デホタ・ナ・ゲハ・ぺロ・ポデル、スイシダシ・ジゼンゾ・キ・ジ
ャ・ヴィウ・トゥド・キ・デヴェリア・セル・ヴィスト
フォイ・エリ・ケン・ヴィウ・ネスチ・ムンド、トゥド・シ・トランスフォルマ
ル・コン・
オ・テンポ・イ・シ・アカバール・ノース・タンベーン、ヴィーモス・アゴラ・
ア・イマジェン・ド・ノッソ・セニョル
サント・ガット、キ・プレゾ・コノスコ、トロウッセ・ア・ノース・プレシオゾ
ス・アリメントゥス
エーリ・アレーン・ジ・サシアル・ノッサ・フォーミ・ファス・アウマ・ヘスシタ
ール
エー・タンベーン・デントロ・ジ・ノース・キ・デヴェーモス・プロクラル・ノッ
ソ・デウス
遥か万里の向こうに、同胞になりし人の国あり
昔、そこに、勇猛果敢な公達(きんだち)ありき
天下の戦いに敗れし折、「見るべきほどのことを見つ」と自害す
この世に、諸行無常の姿を見たものなり
われらも、今神の姿を見つ
われらとともにとらわれし「ねこま」(猫)、われらに糧(かて)を運びぬ
そは、腹を満たすだけでなく、魂を蘇らすものなり
われらも、われらの仲に、神を探さん
フォフォは、毎日のように、鳥やネズミなどをもってきた。
ジューニオルさんが、牛乳などを使って、おいしい料理を作った。
|