[2006/12/18] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章21
記事はこのように続いていた。
「『バス174事件』の教訓を思いだすまでもなく、
ブラジルの大都市リオデジャネイロやサンパウロにいるストリートチルドレンを
いかに救済するかは、我々の未来がかかっている問題である。
なぜなら、どこの国も、伝統と文化は、子供が秘めている可能性によって継続され
るものであって、ブラジルも、当然そうだ。
それなのに、我々は、ストリートチルドレンが、かっぱらいや万引きといった
『ほんの些細』なことをするといって排除しようとする(これだって食べるために
は仕方がないじゃないか)。
子供たちの奥にある可能性を見ようじゃないか。
どんな親も、自分の子供を路上に放りだしたくはないのだ。
今こそ、我々が子供たちを近くで見ることを忘れてはいけない。
また、『せっかく孤児院に入れてやったのに逃げたのだから、
もう何もする必要がない』という意見もあろうが、それは家庭や学校で社会的な訓
練を受けていないだけだ。
そして、今、我がブラジルで、一人の日本人の少年が行方不明になっている。
彼は、父親の可能性の一部であり、自ら無尽蔵の可能性を持っている。
我々も悠太を探そうではないか。あたりを注意深く見よう。そして、悠太を父親の
手にもどそう!」
その下には、昨日パパがグローボというテレビ局で話した内容とぼくの写真が載っ
ていた。
パパは、オーナーに助けてもらって、文章が理解できた。
「テレビや新聞がこんなに大きく取り上げてくれたから、絶対大丈夫よ」と、オー
ナーは、パパに声をかけた。
朝食をすませ、自分の部屋にもどった。もう一度新聞を読んでいると、激しいノッ
クが聞こえた。パパは、すぐさまドアを開けた。
予想通りオーナーが立っていて、「たいへんよ。大統領の使いが来ているの」と、
目を大きく見開いて言った。
「何かあったのですか」と聞くと、「あなたに用事らしいわ」と言って、パパの手
を取って、フロントに行くように促した。
フロントに行くと、若い男が立っていた。
黙って頭を下げると、「小林さんですか。ルラ大統領の手紙を預かってきました」
と封筒を渡そうとした。
パパが怪訝な顔のまま受けと取ろうとしたので、
「ルラ大統領は、小林さんのことを大層心配していました。よろしく伝えてくれと
いうことでした」と、笑顔で言った。
その若い男を見送ったあと、後ろに立っていたオーナーと、その手紙を読んだ。
「小林さん。大きな夢を持って、ブラジルに来られたのに、こんなことになって誠
に申しわけなく思っています。
また、こんなときにも、ブラジル人を怨むことなく、ブラジル人に自信をつけさせ
てくれたことに深い感銘を受けました。
ブラジル人の一人として、責任を持って、かけがえのない子供である悠太を探しま
す」
そして、大統領の署名があった。
オーナーは、「大統領が探してくれるのよ!」と叫び、パパを抱きしめた。
2,3日後、またオーナーを驚かすことが起こった。
リオ警察から電話があったのだ。相手はカトウと名乗った。
「あっ、カトウさんですか」と、パパは答えた。
「このほど、ぼくが悠太君の捜査を担当することになりました」
「よろしくお願いします」
「今まで、何もできなくてごめんなさい」
「いいえ。何かわかりましたか?」
「ある日系のおじいさんから電話がありました」
「4月8日の4時頃、そのおじいさんが、ブラジリアにいる子供に会いにいくために
バスに乗りました。
何気なく外を見ていると、日本人らしい少年が一人立っていました。
孫に似ているなと思っていると、若い男が近づいてきて、その少年になにやら話し
かけていました。
2,3分すると、二人は、近くにいた車に乗りこみました。すると、車は、すぐに走
りだしました。
そのおじいさんは、少年が、お兄さんか誰かに会えてよかったなと思って、そのこ
とはすぐに忘れたようです。
しかし、それが、今回のことと結びつくとは思わないが、何かの参考にでもなれば
と電話をかけてきたようです」
「悠太でしょうか」
「まだわかりません。しかし、そのおじいさんに会って、もう一度話を聞く予定で
す」
カトウさんは。また連絡をしますと言って、電話は切れた。
すると悠太は、誰かに連れていかれたのか、それじゃ、やはり誘拐か、
あるいは人違いで、車に乗っただけか、それなら、リオから遠く離れてしまったの
で、こんな騒ぎになっていることがわからないだけなのか、まさか。
パパは、またセウ・ペードロという老人に会いたくなった。
すぐに、いつも老人がいる通りに行き、通行人の間をくぐりぬけて、探したが見つ
からなかった。
セウ・ペードロという老人と同じように路上で生活している老人は、5,6人いた
ので、
消息を聞くことにした。
「最近、見かけないな」
「わしらも心配しているところじゃ。
お前さんは、あいつとどんな関係があるんだ?」
途方にくれて歩いていると、向こうからこっちを見ている少年に気がついた。
何かをせびったり、売りつけたりするのかと目を向けると、汚れた格好をした少年
の表情が変わった。
「ゼジニョ!」とパパは叫んだ。
少年は、パパのほうに近づいてきて、「こんにちは」と挨拶した。
「元気だったかい?」
「うん。悠太を探しているんだが、いないんだ」
「ありがとう。心配かけているね。セウ・ペードロじいさんはどこ?」
「ちょっと病気なんだ」
「そりゃ心配だ。入院しているの?」
「いや、あるところで寝ているんだ」
「おじさんを連れていってくれないか」
ゼジニョは、しばらく黙っていたが、「じいさんは、喜ぶだろうが、困ったな」
「どうして?」
「警官に知られると、おれたち追いだされるに決っているんだ」
「誰にも言わないよ」
「絶対?」
「約束する」
ゼジニョは歩きだした。
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