[2006/12/25] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章22
「どこへ行くんだい?」とパパは、行きかう人の間を急ぐゼジニョの後を追いかけ
ながら聞いた。
「海のほうだよ」と、ゼジニョは、さらに急いだ。
二人は、大きな道をいくつか越えていった。だんだん人通りは少なくなっていっ
た。
ようやく砂浜と海が見えた。海には、無数のヨットや船が浮かんでいた。
その向こうには、巨大な釣鐘のような岩山が聳えたっていた。
あれは、ポン・ジ・アスカールだとわかった。写真で見たことがあるからだ。
リオのターミナルに着いた直後に、こんなことになったので、ゆっくり海を見たの
は初めてだったのだ。
日本総領事館は、海のすぐそばだったが、そんな余裕が持てなかったのだ。
ゼジニョは、かまわず浜辺をどんどん歩いていった。
船でも乗ってどこかに行くのだろうかと思ったが、ときおり浜辺の途中で、まわり
を見回した。
パパは、自分のことを心配してくれているのかと思ったが、そうではなさそうだ。
警戒しているようだった。
パパもあたりを見回したが、散歩をしている人を見かけるだけで、写真で見たよう
に観光客があふれているようなことはなかった。
海に近づくにつれて、船やヨットの上も人がいるのに気づいた。
しかし、ここはコパカバーナとかイマネパといった海岸ではないかもしれないと思
ったが、
ゼジニョが、警戒している様子だったので聞くことはしなかった。
有名な海岸でも、人が少ないときには行かないようにと注意書きがあったが、ゼジ
ニョがいるから、心配することはないはずだと思った。
そのとき、「ゼジニョ、ゼジニョ」という大きな声が聞こえた。
そっちを見ると、4,5人の子供が、こっちに向って走ってくるのが見えた。
だんだん近づいてきたが、パパが近くにいるのがわかって、子供たちは、少し戸惑
ったようだった。子供は、手前で止まった。
パパが挨拶をすると、みんなきょとんとして、恥ずかしそうに頭を下げた。
そして、ゼジニョに、「これはどうなっているんだ。早く教えてくれ」というよう
な視線を送った。
ゼジニョは、それにかまわず、「じいさんはどうだ?」と聞いた。
「今日は少し食べたよ」と、少年が答えた。
ゼジニョは、「おじさん、もうすぐ会えるから」と、パパに言った。
しかし、またあたりを見回した。ゼジニョたちは走りだしたので、パパはついてい
った。
もう砂浜のはずれに近く、岩が海に延びていて、その上は木が生えていた。
ゼジニョたちは、岩を登った。パパは、心臓が飛びだしそうになっていた。しか
し、ゼジニョたちは休むことなく、海のほうに急いだ。
そして、岩を下りると、岩には、穴がぱっかり開いていた。直径1メートル半ぐら
いあったが、柵があって入れないようになっていた。
ゼジニョは、またあたりを見回し、「ここは、雨の排水溝だから臭くないよ」と言
った。
「えっ?」とパパは叫んだ。
「ここはおれたちの別荘だよ」と笑った。
「以前、ここに、おれたちがいることがわかって、警官が追いだしに来たことがあ
るんだ。
そのときに、こんな柵を作りやがった。でも、おれたちは、ここが気に入っている
んだ。
誰にもじゃまされないからな。でも、警官や役人が、時々見回りに来るから、こう
しているんだ」と言った。
そういうと、ゼジニョは、2本柵を抜いた。子供たちが入り、その後、パパも、体
を横にして、ようやく入ることができた。最後に、ゼジニョが入り、また柵をし
た。
中は薄暗く、みんなが立てる音が響いた。少し体をかがめて、4,50メートルぐ
らい進むと、左にカーブしていた。みんなの歩くスピードが緩くなった。
ようやく目が慣れてきていたので、前を窺うと、何かがあった。
ゼジニョは、「じいさん、小林さんが会いにきたよ」と、「何か」に言った。
すると、ベッドのようなものの上にいた「何か」が動き、「おう」という声が響い
た。そのしゃがれた声は、セウ・ペードロ老人に違いなかった。
パパは、顔を近づけ、「大丈夫ですか?」と聞いた。薄暗く、ひげも伸びていたの
で、顔色ははっきりわからなかったが、かなり痩せたように感じた。
「あまえさんか?よく来てくれたな。息子とは出会えたかいかい?」と答えたが、
その声は弱々しかった。
「いや、新聞だけでなくテレビも放送してくれてので、情報を待っているところで
す。
大統領からも手紙が来ました」
「そうか、それはたいしたもんだ。ルラは、子供のときから苦労しとるからのう」
と言ったが、息苦しいのか胸を大きく押しあげた。
「病院に行ったほうがいいのではありませんか?」
「いや、もう長くはないのはわかっている。でも、子供たちが心配してくれて、歩
くこともできないわしを、ここまで運んでくれたのじゃ」
「子供たちのためにがんばってください」
「長生きしても、何の意味があろう。ただ、この子供たちが心配だ。悪さもする
が、ほんとにいい子供たちだ。何とか夢を持たせてやれば、将来もあるだろう」
「ぼくにできることはやらせていただきます」
「ありがたいが、お前さんにはすることがあるじゃろ?」
「実はターミナルで悠太を見たという情報がありました」
「そうか。誰か悪いことをしたかもわからんのう」
「やはりそうですか」
「身代金の要求がないということは、そいつは殺されたりしているかもしれん」
「殺された!」
「そうとしか思えんが」
「どうしたらいいでしょう?」
「わしが元気だったら、行くところがあるが」
「どこですか?」
「『蛇の道は蛇』というからな」と言って、セウ・ペードロ老人はくすっと笑っ
た。
「えっ!教えてもらえば、ぼくが行ってきます」
「それじゃ、ゼジニョと一緒に行くか」
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