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[2007/01/01] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章23 

他の子供たちが、セウ・ペードロ老人の横にいて、ゼジニョがパパを案内すること
になった。
ゼジニョは、また2本の柵をはずし、頭だけを出し、用心深く外を見た。
先に自分が出て、パパが出るのを助けたあと、柵を取りつけ、岩を登った。
そして、林の中を端まで走りぬけ、砂浜に出た。
パパも遅れないようについていった。ようやくゼジニョに追いつき、息を弾ませな
がら、「どこへ行くのだい?」と聞いた。
「みんなが、ファべーラと呼んでいるところだよ。じいさんの知りあいがいるん
だ」
「ファベーラ!」パパは、思わず声を上げたが、それ以上は言わなかった。
ファベーラという言葉は、大勢の人から聞いたことがある。
カトウという警官も、リオツールのモニカさんも、ペンションの女オーナーも、
そして、新聞社の記者やテレビ局のアナウンサーも、
「山の中腹などにあるファベーラというスラム街に近づかないようにしてくださ
い。
あそこは、麻薬などの犯罪集団が住んでいます。
子供たちでも襲ってくることがありますから。
とにかく、汚い身なりをした大人や子供には近づかないことです」と忠告してくれ
たことがある。
今から、そこに行こうとしているのかと思ったが、必死でゼジニョのあとを追っ
た。
ようやく砂浜を出て、大通りに出た。
そのとき、ゼジニョが、パパのほうを振りかえり、「大丈夫?」と聞いてきた。
さっきパパがファベーラという言葉を聞き、動揺したことを心配したのかもしれな
い。
「ああ、大丈夫だ。これからどれくらい歩くのか?」とパパは言った。
「1時間ぐらいかな」
「それじゃタクシーに乗ろうか」
「おじさん一人で乗りなよ。おれが場所を言うから」
「早く行きたいんだ」
「おれは乗せてくれないよ」
パパは、それに答えず、手を上げてタクシーを止めた。
タクシーは、すぐに止まったが、運転手は、ゼジニョを見て、いやな顔をしたのが
わかった。
パパは、「急いでいるんだ。乗せてくれ」と言って、ゼジニョを押しこみ、タクシ
ーに乗りこんだ。
運転手は、仕方がないという表情でタクシーを動かしたので、ゼジニョが、場所を
言った。
タクシーは、セントロを北に向かい、コンドミニアムといわれる高層マンションが
建ちならぶ地区の裏手を進んだ。
道は狭くなり、人通りもほとんどなくなった。運転手が、ときおり後ろを振りかえ
った。
しばらく走ると、「これ以上は行けない」とタクシーを止めた。
二人が降りると、タクシーは、猛スピードでもどっていった。
あたりを見ると、街のはずれに来たようだった。ほとんど建物もなく、赤茶けた道
が丘に向っているだけだった。
二人は、その道を登っていった。両脇には、ごみが散乱していて、強烈な臭いがし
た。
パパは、息苦しかったが、ゼジニョに遅れないように歩いていった。
途中、すれちがう大人や子供が、怪訝そうに二人を見た。
ゼジニョは、かまわず「おじさん、悠太はどんな子供なの?」と聞いてきた。
「絶対希望を忘れない子供だよ」
「おれ、悠太に会いたい」
「悠太も、ゼジニョと友だちになりたがると思う」
「ゼジニョのパパは、どこにいるの?」
「ギャングに殺された。ママもどこかに行ってしまったんだ」
パパは、ゼジニョに、どんな言葉をかけようかと考えていると、赤いペンキの家が
集まっているところへ出た。
そこも、ごみが散乱したり、タイヤや電線のようなものが山積みにされていた。
広場では、子供たちが、サッカーをしていた。ここがファベーラかと思うやいな
や、歓声が上がり、その子供たちが集まってきた。
「ゼジニョ、どうしていたんだい?」
「ゼジニョ、元気か?」
騒ぎに気がついたのか若い男がやってきた。
「おう、ゼジニョか、何が起きたんだ?」と言って、パパのほうをちらっと見た。
ゼジニョは、その男に、「じいさんがボスに話があるんだ」と言った。
「よし、ついてこい」と言って歩きだした。
広場を横切り、一軒の家の前に止まった。柱と柱の間に棒をはすかいに組み、かな
り頑丈に作られていた。
若い男は、その家に入っていった。二人は、そこで待っていた。
しばらくすると、その男が出てきて、入るように言った。
中は、狭くテーブルとイスが4,5脚あるだけだった。
すわって待っていると、奥のドアから、4,50才ぐらいの男があらわれた。
笑顔だったが、目は笑っていなかった。
「じいさんは元気か」
ゼジニョは、セウ・ペードロじいさんが病気であり、今どこにいるか話した。
ボスは、「そうか。後で金を渡すから、薬でも買ってやってくれ」と言った。
「ところで、じいさんは、おれにどんな話があるのだ?」
ゼジニョは、ボスに、パパをじいさんの友だちだと紹介した。
そして、友だちが、こんなことになっているので、ボスに力を貸してほしいとい
う、じいさんの頼みを伝えた。
ボスは、パパに握手を求め、こんな汚いところに来ていただいて申しわけないとあ
やまった。
「しかし、そりゃ困ったな。わしの部下も、そんなことをしているかもしれんし
な。
とにかく、そいつらから何も連絡がないのは、じいさんが言ったとおりかもしれ
ん。
最近組織同士の抗争が頻発しているから、無理かもしれんが」
この後、ボスは、セウ・ペードロじいさんの話をした。
「わしらのあこがれのボスだった。他のボスも、一目おく勇気のある男だった。
しかし、女房と子供が殺されてから、足を洗った。
174バス事件のときも、じいさんは、サンドロを助けようと、結局警官に殺され
てしまった。あんな混乱がなかったらと、じいさんは悔やんでいた。
わしも、じいさんに足を洗うように説得されたが、まだこんな稼業をしているよ」
と笑った。





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