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[2007/01/15] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章25 

あくる日、役所から電話がかかってきた。
「小林さんですか。病人がいるとのことですが」
「そうです。しかるべき病院を紹介してほしいのです」
「ブラジル人ですか」
「そうだと思います。老人です。路上で生活しています。今は子供たちが世話をし
ています。
しかし、状態がひじょうに悪いので、診察だけでなく、入院や生活のことを考えな
ければならないので連絡しました」
「あなたとどんな関係ですか」
「友だちです」
相手は、「うーん」と言って考えこんだまま返事をしなくなった。
誰かと相談したのか、ようやく「わかりました」という返事が返ってきた。
「それでは、どこへ行けばいいですか」
「ありがとうございます。もう一度連絡します」
パパは、電話を切り、ゼジニョと会うためタクシーに乗った。
セウ・ペードロ老人がいる海岸は、やはり人は少なかった。
ゼジニョらしい少年も見かけなかったので、配水管がある林に向って歩いていっ
た。
しばらくすると、パパを遠くで見ていたのだろうか、2,3人の子供たちが近づい
てきた。
きっと先日いた子供に違いないと思い、「ゼニジョはいる?」と聞いた。
10才位の少年が、「ここにはいないよ。今町にいるはずだから探してくる」と言っ
て走って言った。
パパは、その後ろ姿を見ながら、この子たちにも未来があるはずだ。それを教えて
やり、チャンスを与える者がいないだけなんだと思った。
1時間ほど待っていると、探しにいってくれた少年とゼジニョが走ってきた。
パパは、先日の礼を言い、セウ・ペードロじいさんが診察してもらえるようになっ
たと言った。
しかし、ゼジニョは、「おじさん、だまされているんだよ。
警官や役人は悪いやつらばかりだ。おれたちを見ると、
『どこかへ行け。痛い目に合わされたいのか』と怒鳴りちらしてばかりいる」と反
対した。
しかし、パパは、「見たところセウ・ペードロじいさんの状態はとても悪い。
すぐに診てもらわなければたいへんなことになる。君たちが後悔しないために、そ
うすべきだ」と説明した。
ゼジニョは、「わかった。おじさんの言うとおりにする」と言った。
パパは、さっそく役所に電話をして、場所を教えた。救急車が来て、排水溝に寝て
いたセウ・ペードロじいさんを病院へ運んだ。
パパも、救急車に同乗した。セウ・ペードロじいさんは、「わしのことを心配して
くれてすまんのう」と弱々しく言った。
やはり重病で、肺がほとんど機能しなくなっていた。
パパが保証人になるということで入院が決まった。
パパは、今誰でも自分のことを知っているので、こういうことができたのだろう。
しかし、これを利用することで、事態をいい方向へ向わせることができたなら、誰
が何を言ってもかまわないと考えた。

その夜、パパは夢を見た。
どこかでワアーワアーという声が聞こえた。
近づいていくと子供たちの叫び声らしいことがわかった。そこは、どこかの川原の
ようだ。
川原に転がっている大きな岩や、砂を掘った塹壕(ざんごう)に子供たちがいた。
それぞれ竹ざおを持ってしゃがんでいる。
そのときビューンと風を切る音がしたかと思うと、カーンという音がして、何かが
砕けちった。向こうの岩や塹壕から石が投げられたのだ。
敵が大声を上げながら竹ざおを槍のように持って攻めてくると、石を投げつけ追い
かえした。
こちらからも、石を投げたり、竹竿で攻撃した。
しかし白兵戦をするのは、上級生だけで、下級生は、岩や塹壕に隠れたままだ。小
さくなって震えている子どももいた。
パパは、恐がっている子供たちの中に、自分がいることがわかった。
そうだ。昔は、仲の悪い地区同士が、こんなふうに喧嘩をしたものだった。
それは、雌雄を決する戦いのようでもあり、放課後の遊びのようでもあった。
だから、どんなに恐くても仲間に入らなければならないのだ。
そのとき、「おーい正八じいさんが流されているぞ」という声が聞こえてきた。
正八じいさんは有名だった。
昼間から酔っぱらっているものだから、いつのまにか粗末なズボンが脱げて、
下半身を丸出しで歩くので、大人も子供も、「おい、正八じいさん、いいものを出
して歩いているなあ」とからかった。
子供たちは、川のほうへ走った。
川幅は50メートルはあったが、中ほどに浮かび、流されているものがいた。
あれが正八じいさんか。手を上げて、助けを求めていた。
みんな叫び、大人を探したがどこにもいなかった。
川は、急激に深くなっていたので、子供が、泳いで助けにいくことはできなかった
のだ。
そのとき、上級生の一人が、4,5本の竹ざおをタオルで結び、20メートルぐらいの
長さにした。
そして、敵味方力を合わせ、その竹ざおを正八じいさんに伸ばした。
しかし、4,5本つないだ竹ざおは重く、正八じいさんは流されているので、なか
なか届かなかった。
正八じいさんがようやく竹ざおを掴まえたので、みんなで引っぱった。
浅瀬まで来たとき、みんなで川原まで運んだ。正八じいさんは、真っ青な顔になっ
ていて、歩くこともできなかった。
「みんなありがとうよ」とかろうじて言った。
騒ぎを知った大人がやってきて、焚き火をして、正八じいさんの服を脱がせ乾かし
た。
大人たちは、「お前たちはたいしたものじゃ」とほめた。
誰かが、「今日も丸見えだ」と言ったので、みんな大笑いした。
いつも喧嘩ばかりしていた上級生も、以前からの親友のようにしゃべっていた。

パパは、朝早く新聞社に行き、こんな広告を出したいと言った。
「路上にいる子供に勉強を教えられる人を募集」





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