[2007/02/05] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章28
ドアを開けると、オーナーがすぐに出てきた。
そして、ママとのぞみのリュックを取りあげて、二人を抱きしめた。
目に涙をいっぱいためて、「どう言ったらいいか。でも、悠太は必ず見つかるか
ら、心配しないで」と声をかけた。
ママとのぞみも、涙を流しながら礼を言った。
部屋に入ると、二人は、ほっとしたようだった。
しかし、のぞみは、パパに会えた喜びがあるはずなのに、あまりしゃべらなかっ
た。
しばらく休んで、近くのレストランで食事をした。そこで、タクシーの中での話を
続けた。
ブラジルの現実をさらに説明するのは、二人を脅かすことにならないかと考えた。
悠太がいなくなってもう1月近く立っているのに、警察の捜査も目撃情報もはかば
かしくない。
ボスからの連絡を待つしかない状況を打ち破るためには、ママの意見が必要だ。
そのためには、どんな現実も話さなければならないと思いなおした。
「さっき見たファベーラは、リオには、何百とあって、それぞれ麻薬組織があるら
しい。
だから、縄張り争いの抗争が頻繁に起こっている。時々警察も大掛かりな取りしま
りをやるけれど、おさまりそうにない。
ファベーラに住んでいる人たちは、どこの誰かわからないので、犠牲になっても、
警察も動かないのだ」
「悠太は、そこにいるのかしら?」
「知りあったおじいさんから聞いたボスに会ったのだけれど」
「どうだった?」
「誘拐をして金を稼ぐ組織もあるから、そこかもしれないということだった」
「でも連絡がないのね」
「明日会いたい人がいる」
朝早く3人でリオの私立病院へ行った。セウ・ペードロ老人が入院している病院
だ。
病室に入ると、セウ・ペードロ老人は寝ていた。一回り小さくなったようだった。
パパは、ベッドに近づき、「セウ・ペードロさん、どうですか」と聞いた。
老人は、少し体を動かし、薄目を開けてこっちを見ていた。
しかし、以前から目が白濁していた上に、急に起こされたためか、なかなかわから
ないようだった。
「小林です」
老人は、ようやくわかったようで、にこっと笑った。
「ああ、お前さんか。今、悠太の夢を見ていたよ」
「元気そうでしたか」
「ゼジニョたちとは、前から友だちだったようで、わしの家で騒いでいた」
「ああそうですか」
「今から、みんなでケーキを食べるとこだった」
「それは悪いことをしました」
「セウ・ペードロさん、日本から女房と子供が来ました」と、二人を紹介した。
ママは、「お世話になりました」と礼を言った。
「奥さん、心配だろうが、悠太は必ず生きているぞ」と声は小さかったが、力強く
言った。
その後、ゼジニョたちがいる海岸に行くことになった。
のぞみは、真っ白な砂浜と真っ青な海を見たとたん「パパ、ほんとにきれいね」と
叫んだ。
「そうだろう。でも、ここは観光客は少ないんだ。もうちょっと向こうに行けば、
コパカバーナやイパネマという、観光客が多い海岸があるんだよ」
「どうして、ここに来たの?」
「ここにも、会いたい人がいるんだ」
パパは、どんどん歩いていったので、二人は、小走りでついていった。
岩の近くに、10人近い人がいるのが見えた。こっちを向いて手を振っている。
それを見て、のぞみが、「知っている人なの」と聞いた。
「そうだよ。きのう子供たちに勉強を教えていると言っただろう?」
時間がある人はいつでもいいから来てほしいと言ってあるので、誰か来ているよう
だ。
近づいていくと、子供たちは、パパのまわりに集まってきた。ゼジニョもいた。
「おじさん、こんにちわ」子供たちの表情は明るくなっていた。
パパは、みんなに二人を紹介した。
「みんな悠太を探してくれているんだ」
「ありがとう」
子供たちの後ろにマンニシャが立っていた。サッカー選手をめざしているが、けが
をして休んでいた。
「小林さん、こんにちわ。今日はサッカーを教えようと思って」とあいさつした。
マンニシャの顔も、前よりいきいきしていた。
サッカーの練習の間、そこから見えるポン・ジ・アスカールの近くまで散歩をし
た。
授業が終わったので、パパは、ゼジニョと話をした。
「おじさんは、もう一度ボスに会いたいだけど、いっしょに行ってくれないか?」
「ああ、いいよ」
「それじゃ、二人はペンションで待っていてくれないか」と、ママに言った。
「わたしもいっしょにいくわ」
「わたしもお兄ちゃんを探しにいく」とのぞみも言った。
「いやだめだ。危険だから」
「3人で行きましょうよ」
ゼジニョたちの手前、あまり反対することはできなかったので、4人でタクシーに
乗った。
ごみが散らかり、悪臭がする道を歩いて、ボスがいるファベーラに着いた。
ボスは、まだ寝ていたが、ゼジニョが話をつけてくれた。
「ちょうどよかった。
知りあいにたずねると、4月12,3日頃に、ターミナルの近くのファベーラで内
部抗争があって、幹部のほとんどが殺された。
そこは、誘拐をよくやっていたらしい」
「そこは、どこですか」
「大体わかるが、今は危険だ」
パパは、地図を書いてもらい、外に出た。そして、「警察に行こう」と歩きだし
た。
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