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[2007/02/12] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章29 

パパたちが、あまりに早足だったので、ゼジニョを待ちかまえていた子供たちは、
あっけにとられたようだった。
しかし、声を出さずについてくる子供たちに気がついて、パパは、ようやく立ちど
まった。
「ゼジニョ、ありがとう。ぼくらは、今から行くところがあるので、ここで遊んで
いったらいいよ。後からお礼をするから」と声をかけた。
それを聞いて、子供たちは歓声を上げた。
「ファベーラなら、おれも行くよ」とゼジニョは答えた。
「いや、君の知らないところだから、おじさんが一人で行ってくる」
「大丈夫かなあ?」
「ああ大丈夫だ。君がいろいろ教えてくれたから」
3人は、ゼジニョをおいて坂道を歩きだした。
「警察に行くの?」とママが聞いた。
「そう」
「カトウさんが心配してくれて、いろいろ調べてくれているのでしょう?」
「そうなんだ。いつも相談に乗ってくれている。今聞いた二つのファベーラについ
て教えてもらおうと思って」
タクシーで警察に行くと、幸いカトウさんがいた。
カトウさんに、ママとのぞみを紹介してから、今ボスから聞いてきた話を伝えた。
「どちらが組織的に誘拐していたか知りたいのです」
「4月中ごろに、そういうことがあったことを聞いていますが、市民に被害が出て
いないので捜査はしていません。
抗争の原因は麻薬密売の縄張り争いでしょう。でも誘拐もしていたかわかりませ
ん」
「ボスが、組織的にしていたはずだと言っていました」
「そうですか。現在は、どちらも幹部連中が殺されて、部下はちりぢりになってい
るようです」
「それじゃ、どちらのファベーラにも行ってみます」
「えっ、そこへ行くのですか?」
「そうです。悠太は、そのどちらかに誘拐されている間に抗争が起きたのじゃない
かと思います」とパパはきっぱり言った。
「でも、こういうときは、みんな殺気立っていて、手当たりしだい犯行を起こしま
す。
警察がフェベーラを捜索をすると、バスの焼きうちや強盗が急増します」
「でも、悠太を早く助けなくては」
「小林さんの気持ちは痛いほどわかりますが、とにかく、そこへ行くのはあまりに
も危険です。
大統領や市長からもどんなことがあって犯人を見つけて、悠太君を助けだせという
命令を受けています。だから私たちが調べてきます」
「ありがとうございます。でも警察が行っても、何もしゃべらないでしょう。
私が行ったほうが話をしてくれるかもしれません」
カトウさんは、じっと考えこんでいたが、「わかりました。それじゃあ私服の者が
ついていきましょう」
「それは心強いです」
そのとき、「ご好意はありがたいのですが、お断りしたいのです」と、ママが日本
語で言った。
「なぜ?」と、パパは、びっくりして叫んだ。
「ファベーラは危険だと言っただろう?そこに悠太が待っているんだから、早く行
ってやらなければ」とパパは怒ったように言った。
「そんなことをするとすぐにわかってしまって、話を聞きだせないわよ。
私一人で行って、聞いてくるから」とママは冷静に言った。
「ママも行くつもりだったのか」
「母親が話をすれば、みんなわかってくれると思うの」
「奥さん、それは無謀です」と、加藤さんも、パパの通訳を介してママに言った。
しかし、どこか気の毒そうな口調だった。
「昼日中に、女など殺さないでしょう。お金を要求されたら渡します」
しばらく誰も口をきかなかった。のぞみは、ママがこんなに自分の意見を言うのを
聞いたことがなかった。
「奥さんの気持ちは、よくわかりました。何かあったら、すぐに連絡してくださ
い。直ちに駆けつける体制をとっておきます」
3人は、カトウさんに礼を言って警察を出た。
近くのレストランで食事をした。
そこで話しあい、3人で行くことになった。のぞみもどうしてもついていくと言い
はったのだ。
タクシーに乗り、バスターミナル方向へ向った。20分ほど走ったとき、幹線を降り
るように言ったので、運転手は驚いた。「ここは危険地帯だよ」
「いや、大事な用事があるから」とパパは、運転手に行くように言った。
幹線を降りてしばらく走ったが、道が細くなっていくと、運転手は車を止めて、
「これ以上は無理だ」と言った。
そういうことには慣れていたので、タクシーを降りて歩いていくことにした。
運転手は、「気をつけてくださいよ」と言って走りさった。
しばらく進むと、山のほうに向う道があった。
ここを頂上近くまで行くと、ファベーラがあり、また途中で道が分かれていて、そ
の先にもう一つのファベーラがあるはずだ。
3人とも緊張していた。悠太は、この先あるファベーラのどちらかにいるにちがい
ないと思ったからだ。
二人は、ファベーラで、どう話をしようか考えた。
そして、「息子を預かってもらっていませんか。返していただいたら、お礼をしま
す」と言うことに決めた。
ようやく道が分かれているところに出たが、まずまっすぐ行くことにした。
張りつめた空気が漂いはじめた。
しかし、パパは、絶対にたじろがずに、前を向いて進もうと考えた。後ろからつい
てくるママとのぞみも守らなければならないのだから。
いよいよ木々の間から、茶色に塗られた家が見えはじめた。悪臭が漂ってきた。
もうすぐ行けば、何百という家が密集している場所につくだろう。
家のまわりで遊んでいた子供たちが、パパのほうに飛んできた。
よそ者であることがわかった子供たちは、わざとぶつかってきた。
子供心に、敵はやっつけなければならないと思っているのだろう。
中には、どこかに走っていく子供もいた。大人に連絡をしにいったのだろう。
ピストルで脅かされても、話ができる者に会わないかぎり帰らないつもりだった。
大人や子供の冷たい視線の中を、3人は進んだ。ママは、のぞみの手をしっかり握
っていた。
3人の前に4,5人の男があらわれ、「何の用だ」と言った。






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