[2007/02/19] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章30
パパは、口の中がからからになっていたが、「私たちは日本人です。
旅行中リオのバスターミナルで子供とはぐれてしまいました。
男の子です。あちこち探しています」と、言葉を発した男の目を見て、しかし顔が
こわばらないように気をつけて、ゆっくり話した。
しかし、その男は、「ここは、お前たちが来るところじゃない」と答えた。
他の男たちも、睨みながら、1歩、2歩と近づいてきた。
パパは、男の一人がピストルを持っているのに気がついて、ママとのぞみの前に出
た。
そして、「リオのことは全くわからないので、困っています」と続けた。
他の男が、「警察に頼まれたのか」と声を出した。
「いや、自分たちだけで探しています」
「何かあったら知らせてやるよ」
「他の人の話も聞かせてくれませんか」
男たちの顔がこわばったようだった。パパも黙っていた。
すると、その空気を打ち破るかのように、最初に声をかけた男が、
「今ちょっと事情があって、みんな忙しいんだ。
聞いておくから、また来たらいいよ」とていねいに、しかし、もう話は終わりにし
たいという気持ちを露わに出して言った。
パパは、「おーい、悠太!聞こえるか」と叫びたい衝動に駆られたが、
「わかりました。他を探してまた来ますから、お願いします」と頭を下げた。
ママも、今はこれ以上話さないほうがいいと考え、男たちに礼を言った。
3人は、男たちや、その後ろにいる大人や子供が、じっと見ているのを感じつつ引
きかえした。
坂道を下りている途中、パパは、暑さと悪臭で呼吸が苦しくなり、激しく咳きこん
だ。
ママは、パパを近くの木の下にすわらせた。のぞみも、パパの汗を拭いた。
「すまない」と、パパは大きく息をしながら、声をしぼった。
「大丈夫よ。もう悠太の近くに来ているはずだから、一度帰ろうか?」
「いや、行こう。今日悠太を連れて帰れるかもしれないんだ」
パパは立ち上がった。ママとのぞみはパパを支えて、ゆっくり歩いた。
3人は、枝分かれした道を右に曲がった。そこを行けば、もう一つのファベーラが
あるのだ。
20分近く歩くと、また悪臭がしだした。
道の両側には、ごみの山があちこちにあった。
そのまま進んでいくと、すれちがった子供や大人は、驚いた顔をして、すっと離れ
ていった。
しかし、歩いていても、どこからか見られている気配がした。
いよいよ住宅に近づいた。広場にいた大人や子供たちも、まっすぐ前を向いて歩い
てくる3人を見ると、雲の子を散らすように、どこかへ走りさった。
広場に、3人いるだけだった。
パパは、しばらくどうしようか考えていたが、大きな声で叫びはじめた。
「みなさん!聞いてください。私たちは日本人です。
リオのバスターミナルで、子供がいなくなりました。子供は、悠太という男の子で
す。
二人で、ブラジルをバスや船で回ってきました。
どこへ行っても、ブラジルの人に温かくしていただき、ブラジルに来てほんの3ヶ
月ですが、日本にいるときと比べて、見まちがうほど成長しました。
今どこかにいるでしょうが、泣いてなどいず、必ず助かるという希望を忘れずにい
るでしょう。
早く悠太と出あい、抱きしめてやりたいのです。誰か悠太という日本人の子供を知
りませんか。どうぞ教えてください」
パパの声はかすれたが、最後まで話しおえた。
ファベーラの住人は、家の陰などでパパの話を聞いている様子だったが、誰も広場
に出てこなかった。
広場は静かだった。「今日は帰りましょう」と、ママは、パパに声をかけた。
「もし悠太がいたら、パパの声を聞いているかもしれないわ」
3人は、ファベーラを後にした。
翌朝、ペンションのフロントを通りかかると、オーナーが、「こんな記事が乗って
いるわよ」と、新聞を見せた。
そこには、10人近い子供たちや大人の写真が載っていた。それは行方不明の写真
だった。
「これは、ほんの少しね。もっともっといるはずよ。
いくら警察に連絡しても、今までは事件として取りあげてくれなかったの。
でも、悠太の事件が起きたので、警察も、行方不明の人を徹底的に捜査するらしい
の。
悠太も、これで見つかるわよ」
オーナーは、のぞみを抱きしめ、「のぞみ、絶対あきらめちゃいけないよ。
悠太は、のぞみや、ママ、パパに会いたいとがんばっているはずだから」と声をか
けた。
のぞみは、「ありがとう」と、目に涙をいっぱいためて答えた。
3人は、レッスンが行われている海岸に向った。
遠くからでも、大勢の子供たちがいるのがわかった。
近づいていくと、マユミが笑顔で手を振った。
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