育児と介護に不安はありませんか?お悩みを解決します。 サイトマップ
インデックスページへ戻る
会社案内
掲示板
メールマガジンへ登録
メールマガジンのバックナンバー
お問い合わせ
メールマガジンバックナンバー

[2007/03/12] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章33 

のぞみがつけていたシャツやスカートがうらやましかったのかもしれない。
リオに来てから買った地味なものだが、その女の子は、目を離せなくなったのだろ
う。
ママは、「お名前は?」と聞いた。
その子は、「マルレーネ」と小さな声で答えた。
のぞみも名前を言った。
ママは、「お友だちになってくれますか?」と聞いた。
「いいわ」
「ありがとう」のぞみは手を差しだした。
マルレーネも、恥ずかしそうに手を出した。
しかし、顔がぱっと明るくなった。ママは、マルレーネのごわごわになっている髪
の毛をやさしくなでた。
マルレーネは、喜びに耐えられないかのように、ぴょんぴょんはねた。
ママは、何かをしなければならないような気がした。
そのとき、マンニシャが来たので、男の子たちがどんどん集まってきた。
サッカーの練習が始まるようだ。ゼジニョとリカルドもいつのまにか帰ってきてい
た。
マユミのまわりにも、女の子が5,6人いた。
ママは、マユミのそばに行き、「マユミさん、わたし、子供たちに歌を歌ってもい
いかしら」と声をかけた。
マユミは、すぐに立ちあがり、「いいですね!わたしも、歌いたかったのですが、
オンチでやめました。ぜひお願いします」と笑顔で言った。
マユミは、早速子供たちに、「今から日本の歌を歌ってもらえるから、ここにすわ
って」と、子供たちを、砂浜にすわらせた。
マンニシャも、「サッカーの練習を止めて聞こう」と言って、男の子たちをすわら
せた。
20人近くの子どもたちが、半円になって、ママを囲んだ。
ママは、「故郷(ふるさと)」、「七つの子」、「赤とんぼ」、「大きな古時計」
と歌った。
歌うにつれて、涙で前が見えなくなってきた。
ぼくの顔が浮かんできたからだ。
しかし、今は、ここにいる子供たちのために歌っているのだ。絶対泣いてはいけな
いと思って、きっと前を向いた。
すると、子供たちの後ろには、大人が、7,8人立って聞いていた。
中年の女性が多かった。きっと散歩をしている人が、何が起きたのだろうと見にき
たのだろう。
ママは、子供たちに元気になってもらおうと、「幸せなら手をたたこう」を歌っ
た。
マユミは、ママの気持ちがわかったようで、子供たちに手をたたくことを教えた。
子供たちは、たどたどしい日本語で、マユミの真似をした。
大人も、同じように、手をたたいた。みんな、だんだん夢中になってきたようだっ
た。
次は、「手のひらを太陽に」だった。
マユミは、「さあ、いくわよ」と、子供たちを立ち上がらせ、
「ぼくらはみんな 生きている」といっしょに歌いながら、即席の振りつけをし
た。
大人も子供も、笑いながら踊った。
マユミも、チオ・サンドロさんも、マニンシャも、そしてのぞみも、白い砂浜で、
夢中で踊った。
そして、歌と踊りが終わると、ヤッターというような歓声と拍手が起こった。
大人たちも満足そうだった。
普通の市民は、こういう子供たちには近づかないのだとパパは言っていたが、今
は、顔見知りのようになっていた。
ママが休んでいると、一人の女性が近づき、「ありがとう。楽しかったわ。
あなたのお陰で、子供たちも喜んでいるわ。誰も、子供たちをちゃんと見ようとし
ないのよ」と握手を求めてきた。
また、別の女性がやってきて、「あなたは日本人ですか?」
「そうです」
「ほんとにありがとう」
ママは、これからも、できるだけのことをしようと思った。
マユミ、チオ・サンドロさん、マニンシャに礼を言い、のぞみと、パパの病室にも
どった。
そして、セウ・ペードロじいさんの様子と海岸のことを話した。
「遅いなと心配していたんだよ。そうか。みんな喜んでいたか。
ぼくも、いつまでもこんなところにいられない。早く退院して悠太を探さなくっち
ゃな」
しかし、ママは、カトウさんから電話があったことは言えなかった。
ペンションに帰ると、オーナーから、あちこちから電話があったことを聞いた。
翌日、ママは、一人でも、あのファベーラに行ってこようかと思ったが、
もし自分に何か起きたら、事態はさらに悪くなってしまうので、今は自重すべきだ
と思いとどまった。
それに、次から次へと電話がかかってくるのだから、その応対をしなければならな
いのだ。
朝食後病院へ行った。パパは、どんどん回復してきていた。
その後、海岸に行ったが、誰もいなかった。遠くで散歩している人を見るだけだっ
た。
昼からは誰か来るだろうが、喉の調子がもどっていないので、早くペンションに帰
ることにした。
のぞみは、「ママ、喉は大丈夫?」と聞いた。
「大丈夫。みんな心配してくれているから、弱音なんかはかないわ」
「そうね。パパもママも一生懸命なことが、みんなわかっているのよ」
「悠太もね」

数日後、病室のドアにノックがあった。
「あら、誰かしら」とママは言った。そして、「どうぞ」と声をかけた。
ドアがゆっくり開いた。パパは、いつものように看護婦が来たのだと思っていた
が、「小林さん」という男の声が聞こえた。
パパは、そっちを見た。ママがベッドを起こしたので、はっきり見ることができ
た。
「えっ、どうなっているの?」とパパは叫んだ。





ページのTopへ
Copyright (c) 2004 MAM CORPORATION All rights reserved.