[2007/03/19] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章34
病室に、4、5人の大人や子供が入ってきた。
パパは、目を見開いて、一人一人見た。
全員誰かすぐにわかったが、なぜ、みんないっしょにいるのか頭が混乱したのだ。
ひょっとして、夢でも見ているのではないかと思い、ママを見ると、ママは、にこ
にこして、見舞い客たちとうなずきあってさえいた。
のぞみも、二人の女の子へ歩みよった。
見舞い客たちは、ベッドのほうへゆっくり近づいてきた。
みんな顔には、少し笑みを浮かべていたが、パパの辛さがわかっているらしく、そ
れ以上感情を表すことはなかった。
そして、「小林さん、お元気になられましたか?」とその中の一番年長者らしい男
の人が、パパに言った。
「平井先生!よく来てくれました」
平井先生は、ママの主治医で、喉の手術をしなければならなくなったとき、
歌の教師をしていたママのことを考えて、声が残るように細心の手術をしてくれた
のだった。
しかし、高音はかすれるので、前のように歌えることはできなかったが、普通どお
りしゃべることができた。ママとパパは、平井先生にとても感謝していた。
その後、平井先生の家が焼けて、奥さんが亡くなった。
平井先生は、勤めていた病院の院長になることを捨てて、船医となって世界中を回
る道を選んだ。
ママとパパは、それを聞き、心細く感じたが、奥さんをなくし、考えるところがあ
ったのだろうと話しあっていた。
ときおりヨーロッパの港から、ママの体を心配してくれて、絵葉書が届いた。
でも、どうしてここまで来てくれたのだろう?
「先週、久しぶりに日本に帰ってきたのですが、小林さんと悠太君のことを知って
びっくりしました。
それで、すぐに奥さんに連絡をしたのですが、お留守のようだったので、
ご自宅まで行き、犬と猫を預かっている近所の人から、奥さんは、のぞみちゃんと
ブラジルに行ったと聞きました。
滞在先を聞いて、ぼくもすぐ行こうとすると、その家に来られた美奈子ちゃんとお
母さんも、ぜひ行きたいとなったので、用事をすませて、いっしょに来ました」
「ああ、そうでしたか。ありがとございます」
「奥さん、美奈子ちゃん、遠いところをありがとうございます」
「美奈子も、わたしも、毎日心配で、いてもたってもいられませんでした。
そうしたら、平井先生が、ブラジルに行くということを聞いて、わたしたちもつい
ていくことにしました」と、美奈子のお母さんは、泣きそうな声で説明した。
「美奈子ちゃん、ありがとう。心配かけているね」
「悠太君に早く会いたいです」美奈子も、少し声を詰まらせた。
「おじさんは、悠太は必ず生きている、しかも、この近くにいるような気がしてい
るんだ。
でも、動けなくなって、悠太に申しわけないと思っているんだ。でも、もう大丈夫
だ。明日からでも、また探す。悠太も、美奈子ちゃんに会いたがっているはずだ
よ」
そして、後ろにいる二人にも声をかけた。「田宮さんとマリアナも来てくれたので
すか?」
田宮さんは、前に出てきて、「ぼくが迷惑をかけなかったら、小林さんたちは、す
ぐに田中さんに会えていたはずなのにと思うとほんとに申しわけなく思います。
みんなぼくが悪いのです。心から謝ります。ごめんなさい」と頭を下げた。
「そんなことはないですよ。
マナウスからアマゾン川を船で下ったことは、ぼくも悠太も忘れられない思い出で
す。そこで、悠太は大きく成長しました。
ぼくも、もう一度やりなおせる自信がつきました」
田宮さんは、唇をかんだまま、何も言わなかった。
「ご両親や元気君はどうされていますか」
すると、田宮さんは、少し明るい表情になって話しはじめた。
「最初は、お兄さんのことで、みんなしょんぼりしていたのですが、小林さんに助
けられて、ぼくが帰ってきたことで、みんな少しずつ元気になりました。
それで、ぼくががんばったら、みんなうまくいくのだと思い、幸い親が、
お兄さんとぼくが仕送りしていたお金を少し残していてくれたので、アドウフォ・
リスボア市場の近くで、屋台を出すことができました。
両親も年を取ったし、弟がいるので、日本には行かず、マナウスでやっていくこと
にしました。
マナウスは、日本人が多いので忙しいです。弟も手伝ってくれていますので、二人
で、レストランを持つ夢を持っています。
友だちになったマリアナのお父さんに、そのことを連絡をしましたら、マリアナを
雇ってくれということだったので、今ぼくの家にいるんです。
母も、お兄さんがいなくなり、もともと女の子がいなかったので、マリアナをかわ
いがってくれています」
「そりゃよかった。そんな忙しいのに来てくれたのですね」
「日本人の観光客が、日本の子供が、リオでいなくなっているが、その後どうなっ
たのかと聞いてきたことがあったのです。
ぼくは、全然知らなかったのですが、突然胸騒ぎがして、その観光客にいろいろた
ずねました。
すると、小林悠太とかいっていたかなと言うので、すぐにリオの日本領事館や警察
に聞きました。
警察のカトウさんから、奥さんの電話番号を聞きました」
「そうでしたか。マリアナ、あの時はほんとにありがとう」
「わたし、悠太のこと聞いてびっくりした。早く会いたい」とたどたどしいが日本
語で言った。
「いつもマリアナにもらったブレスレットをしていたし、今もしているだろうか
ら、大丈夫だ」
マリアナは、涙をためた大きな目で、パパをじっと見てうなずいた。
パパは、「ママとのぞみは、みんなが来てくれているのを知っていたのか?」と、
ママに聞いた。
「そうよ。みなさん、リオまで来て、ペンションに電話をかけてくださったの。
でも、あなたが、しばらく安静にしなければならなかったから待ってもらっていた
のよ。
今日、お医者様からもう大丈夫という診断が出たから、いっしょに来ていただいた
の」
「そうだったのか。みなさんありがとうございます」と礼を言った。
そして、船で、田宮さんと知りあったこと。チリのバルパライソで船を下りて、サ
ンパウロまで3人で行ったこと。
そして、予定を変更して田宮さんを探すためにバスに乗ったこと。
途中、クイアバという町に行くバスに乗っているとき、カピバラにぶつかり、バス
がひっくりかえったことなどをした。
「田宮さんのことが心配で、バス会社が用意してくれたホテルに泊まらずに、歩く
ことにした。
運転手や他の乗客は、危ないからやめとけと注意したが、かまわず歩いた。
歩いているうちに、空一面が、真っ赤な夕焼けにまった。
あんな夕焼けは見たことがなかった。まるで炎の中を歩いているようだった。
それが、自分たちの心に移ったかのように、どんどん歩いた。
いや自分たちの心が先に燃えていたかもしれない。二人の顔も真っ赤になっていた
ので、二人で笑いあいました。
結局、真っ暗になってしまったので、ハイウエー近くの小屋で休みましたが。
悠太も、あの光景を思い出してがんばっていると思います」
パパは、そこまで言うと目を閉じた。
しばらくして、平井先生が、「ぼくらも、悠太君を助けだすお手伝いをしたいので
す」と言った。
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