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[2007/03/26] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章35 

「ありがとうございます」パパは平井先生の手を強く握った。
「みんなが来てくれてほんとに心強いです」
田宮さん、マリアナ、美奈子、美奈子のお母さんも、パパとママを助けたいという
気持ちを、それぞれの顔に浮かべていた。
そのとき、ドアにノックの音がした。
みんなが、そっちを振りかえると、ドアがゆっくり開いて、小さな老人が顔を出し
た。
「やあ、セウ・ペードロさん」と、パパは声をかけた。
セウ・ペードロじいさんは、大勢の人を見て驚いたのか、どうしようか迷っている
ようだった。
「セウ・ペードロさん、どうぞ入ってください」パパは、さらに大きな声で呼びか
けた。
セウ・ペードロじいさんは、少しおぼつかなかったが、まっすぐパパのほうへやっ
てきた。
みんなの中に、ママを見つけて頭を下げた。それから、「小林さん、どうじゃ
な?」とパパに言った。
「すっかり元気になりました」
「入院されていることは、子供たちから聞いていたんだが、医者から動くなと言わ
れていたもんで失礼した。
そのうち、奥さんが来てくださるようになって、話を聞いて安心しておった」
「ぼくのほうも失礼しました。お体のほうはどうですか」
「小林さんのおかげでよくなったよ。ほんとにありがとう。明日退院できることに
なった。そして、市が用意してくれた施設に入ることになった」
「そりゃよかった」
「みんな小林さんのおかげじゃ。悠太のことは、まだ手がかりはないのか」
「二つのファベーラのどちらかに、悠太を知っている人間がいるように思います。
それで、毎日そこへ行っていたのですが、ぼくが倒れてしまったのです」
「でも、みんな来てくれたので心強くなったところです」と、ママが、セウ・ペー
ドロさんに言った。
「わしも、明日から探すぞ」
「無理をしないでくださいよ」
その後、平井先生たちは、ママといっしょに子供たちがいる海岸へ行った。
「あそこです」ママは、子供たちが集まっていた場所を指さした。
「大勢いますね」美奈子のお母さんは驚いて言った。
そっちに向っているときに、女の子が走ってきた。「マルレーネ!」のぞみも走っ
た。
「二人は友だちなんですよ」とママは説明した。
20人近くいた子供たちの中に、マユミ、マニンシャ、アントニオがいた。
3人は、ママに挨拶をしたが、すぐに子供が騒いだので、話をする暇がなかった。
折り紙やサッカーが始まった。「小林さんは、大変なときなのに、すばらしいこと
をはじめましたね」と、平井先生は子供たちの声に負けないように、大声で言っ
た。
のぞみと美奈子、マリアナ、マルレーネは、マユミのまわりにいる女の子に混じっ
て、折り紙を教えてもらっていた。
田宮さんは、いつのまにかサッカーの練習をしていた。
「これはすばらしい」平井先生は興奮していた。そのとき、ブラジル人の女の人
が、ママに話しかけてきた。
「小林さんですか」
「そうです」
「新聞で悠太君を探されていることは知っています。
私の子供のルーカスもいなくなって、もう2ヶ月近くになりますが、警察も調べて
くれず、毎日泣いています」
「そうでしたか。お辛いでしょう」
「どうしたらいいのかわからなくて」と、その女の人は泣きはじめた。
「わたしたちはあきらめてはいけません。本人たちは、今日もどこかで、わたした
ちを待っているのですから」ママは、その女の人の両手を握った。
「とても不安で」
「毎日ここへ来てください。わたしたちがいますよ。
日本やブラジルの友人が、悠太を探すために来てくれています。
ここにいる子供たちも、悠太を探してくれているのです」
「とても心強いです。夫にも、そう言います」その女の人は、ようやく救われたよ
うな顔をしていた。
パパは、2,3日で退院できるようになったが、急がなければならないので、翌
日、平井先生と田宮さんは、あの二つファベーラに行くことに決めた。
しかし、ママは、話をしてくれる老人がいるので、自分も行くと主張した。
それで、美奈子のお母さんが、のぞみと美奈子、マリアナ、そして、今はいっしょ
にいるマルレーネを見ることになった。
ママたちはタクシーに乗った。
カトウさんが言っていたように、抗争は、あちこちで起きているようで、けたたま
しくサイレンを鳴らしながら、走りまわっていた。
その後には、武装警官を乗せた装甲車がついていることもあった。
ファベーラの様子については、昨晩ママが話しておいたが、もし危険を感じたら、
すぐに引きかえすことにした。
タクシーを下り、ファベーラに向う登り坂を歩いていった。今回は、まず話をして
くれた老人がいるファベーラに行くことにした。
悪臭のことも話をしていたが、以前に増して、ひどくなっているようだった。
ファベーラに近づくと、子供たちの大きな声が聞こえた。田宮さんは、誰か来た
ら、ぼくが話しますと言って、先頭を歩いた。
広場のベンチに老人がすわっていた。あいかわらず痩せた背中を丸めて、子供たち
が、サッカーをするのを見ていた。
ママは、「こんにちは」と明るく言った。
その老人は振りかえったが、白く濁った目では、3人をはっきり見ることができな
かったようだ。
「こんにちは。前に日本の子供を知らないかと聞いた者です」
老人は、ようやくわかったようで、「ああ、お前さんか。話したいことがあるん
だ」と言った。






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