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[2007/04/02] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章36 

「この前はいろいろ教えていたいただきありがとうございました。何かわかりまし
たか?」
ママは、まだポルトガル語はうまく話せなかったが、ていねいに挨拶をした。
「お前さんたちが会ったのは、おれの兄貴だ。先週死んだよ」
「えっ、どうされたんですか?」
「わしらは、病院に行くこともできないので、神様が決めたときに死ぬよ」
「それは気の毒なことでしたね」
「わしと兄貴は、双子のように、よく似ているので、みんなまちがうよ」
「そうでしたか」
「そんなことはどうでもいい。兄貴が死ぬとき、日本人が来たら伝えておけと言っ
たのでな」
「ありがとうございます」
「兄貴は、死ぬ2日前まで、毎日ここで待っていたんだ。
でも、お前さんたちが来ないので、どうしたんだろう、見つかっていたらいいがと
言っておった」
「申しわけありません。主人が入院したものですから。でも、もう退院できそうで
す」
「そうか。まだ息子は見つからないのか」
「はい。でも日本やブラジルの友人が駆けつけてくれましたので心強いです」
「お前さんたちも知ってのとおり、ここで大勢の者が殺された。また大勢の者が逃
げた。
この前密かに帰ってきた、わしらの甥(おい)っ子に、兄貴が聞いたところ、
下の者は強盗はよくやったが、誘拐はしなかった。
しかし上の連中は、まとまった資金がいるので、金を持っていそうな者を誘拐した
そうだ」
「甥っ子は直接関わっていないらしいが、日本人の子供もいたと聞いたことがある
らしい」
「えっ、そうですか。誘拐して、どこへ連れていったのですか?」
「アジトじゃ」、
「どこにありますか?」
「そこには大事なものがあるので、下っ端は教えてもらっていないらしいが、なん
でもキリストの足元の近くらしい」
「キリスト?」
「街に出れば、大きなキリストがいるのが見えるだろう?」
「コルコバードの丘のキリストですね」と、今まで黙ってじっと聞いていた田宮さ
んが言った。
「そうじゃ。しかし、そこまでしかわからない」老人の弟は、田宮さんのほうに、
浅黒い顔を向けて続けた。
「わしらは、外部の人間にあまりしゃべらないのだが、兄貴は、お前さんたちには
言っておきたいと思ったのだろうな。
死ぬ直前まで、そのことを心配しておった」
ママの目には、みるみる涙が浮かんできた。
田宮さんは、その弟に、「ありがとうございました」と言って、手を握った。
「ここにいる子供たちは、若い親が、いつのまにかどこかへ行ったり、殺されたり
するので、みんな孤児じゃ。子供を大事にしなされ」
そして、ゆっくり立ち上がって、「キリストが、子供を守ってくれていることを祈
っている」
と言って、杖をついて歩いていった。
ママは、後ろから「ありがとうございました」と頭を下げた。
弟を見送ってから、「それでは、コルコバードの丘に行きましょうか」と田宮さん
が、二人に言った。
ママは、「まず病院に行きたいのですが」と言ったので、ファベーラを下りて、タ
クシーで病院に向った。
パトカーがサイレンを鳴らして、どこかへ走っていた。その後を、警官を乗せた装
甲車のような車がついていた。
病室に入ると、美奈子のお母さん、美奈子、マリアナ、マルレーネ、そしてのぞみ
が来ていた。
みんな、3人のほうへ走ってきた。パパも、ベッドから出て、「何かわかりまし
た?」と聞いた。
「前に会ったおじいさんは亡くなっていたの。
でも、その弟さんが私たちを待っていてくれて、おじいさんが私たちに伝えたかっ
た話をしてくれたわ」
ママは、今聞いてきたことを話した。みんな驚きの表情になった。
「そうか。すぐに行こう」
「大丈夫?」
「そうだ。退院の許可が出たんだった」
「よかったわ」
「それに、平井先生がついているじゃないか」
パパたちは、退院の手続きをして、すぐさまタクシーに分乗して、コルコバードの
丘に行くことにした。
タクシーは、セントロ地区を抜けて、南に向った。
コルコバードの丘は、丘といっても急峻な山のようになっていた。標高700メート
ルあるという。
街からは、両手を広げたキリストは、白い十字架のように見えていた。
パパもママも、毎日、そのキリストの像を見上げていたが、観光をする気持ちには
ならないので、そこへ行ったことがなかった。
タクシーは、急な山道を上りはじめた。近くを赤い電車が丘を登っているのが見え
た。
20分近く登ると、タクシーは、頂上に着いた。観光客であふれていた。
そして、急な階段を登ると、30メートルぐらいの高さがある、真っ白な石でできた
キリストが立っており、リオの街を包むかのように両手を広げていた。
そこから、岩山と岩山の間に広がるリオの街並みが眼下に見え、その向こうは、コ
パカバーナ海岸やイパネマ海岸が広がっていた。
さらに、巨大な半鐘のような形をしたポン・ジ・アスーカルといわれる大きな岩
が、グアナバラ湾に浮かんでいるようかのように見えていた。
あの手前の海岸では、ゼジニョたちが集まって、楽しいレッスンが続いていること
だろう。
世界最高の景色といわれるのも当然のようだった。
観光客は、さらに増えているようだった。夕方の景色が一番美しいらしいですと、
田宮さんは、パンフレットを見ながら、控えめに説明した。
青い空と青い海が霞むようになると、リオの街に明かりがつき、キリストの像も光
に照らされ、真っ暗な空に浮かびあがるからだ。
パパとママは、悠太も、この近くのどこかで、観光客のざわめきを聞いているのだ
ろうかと思った。





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