[2007/04/16] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章38
3人は、奥へ奥へと進んで行った。
そして、手分けをして探すことにしたが、そこも、大きな枝がぶらさがったり、
背の高い草がおいしげったりしていたので、頭を打ったり、転んだりした。
しかも、蒸し暑く、服は、汗でびっしょりになってきた。
パパは、「悠太、どこにいるんだ」と叫んだ。
それは、ぼくを探すためでもあり、自分を励ますためだった。
平井先生や田宮さんも、「悠太君」、「聞こえるか」と叫んだ。
下の方からも、ママやのぞみたちの声が聞こえた。
その叫び声に驚いたのか、鳥だけでなく、サルのような動物の鳴き声も響いた。
休憩をしながらも、3時間近く探したので、みんなで昼食をすることにした。
3人は、ママたちがいる場所に戻ることにした。
ママや美奈子のお母さん、子供たちがいたが、みんな汗びっしょりだった。
木陰で、ランチョネッチで買ってきたサンドイッチを食べた。そこから、キリスト
の像の頭や広げた両手だけが見えていた。
真っ青な空に、まぶしいほど白く輝いていた。
それは、心強い光に思えた。
平井先生は、今みんなで探した区域を赤く塗った。
30分ほど休んで、スコールが来るまで探すことにした。
強烈な雨に濡れると体力を消耗するだけでなく、スコールの後は、さらに蒸し暑く
なり、林の中にいることはできなくなるからだ。
みんな泣きそうになりながらも探しつづけた。「悠太」、「悠太君」と腹の底から
絞りだされた声は、林の中にこだました。
パパは、足が上がらないほど疲れてきた。
しかし、絶対弱音を吐くまいと歩きつづけた。
平井先生は、スコールが来る前に帰ろうと言った。スコールが来ると、さらに蒸し
暑くなり、体力を弱らせるからだ。
一日目は、何も見つけられなかったが、みんな、今やれることをやっているという
気持ちだけはできたようだった。
次の日も、朝早くコルコバードの丘で探した。しかし、何も見つけることはできな
かった。
夕方、ゼジニョがいる海岸に寄った。
ゼジニョたちは遊んでいて、パパたちを見つけると走ってきた。今日は、マユミや
マニンシャたちはいなかった。
「おじさん、大丈夫だった?」ゼジニョは心配そうに聞いた。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「ここへ来なかったから、心配していたんだ」
「悠太がいるかもしれないので、コルコバードの丘を探しているんだ」
「わかったの」
「あのファベーラにいたおじいさんが教えてくれた」
「よかったね」
「セウ・ペードロさんは、どうしている?」
「施設でおとなしくしているよ。今日も行ってきたんだ」
「おじさんも近々行くから、そう伝えておいてくれないか」
ペンションに帰ると、オーナーが、田中という人から何回も電話があったと言っ
た。
「田中?田中君か」
パパは、さっそく電話をした。ボツカツの農場であった田中君の弟だった。
「小林さん、ご無沙汰しております。小林さんの息子さんが行方不明になっている
ことを知り、びっくりしています」
「早くお兄さんに会いたかったのに、こんなことになってしまいました」
「ほんとに辛いことです。兄も早く小林さんに会いたいと言っていました」
「田中君も知っているのですか」
「ぼくが連絡しました。今ポルトガルにいるものですから」
「えっ」
「女房のミリアンが亡くなったのです。兄は、一生懸命看病しましたが、だめでし
た」
「ああそうでしたか」
「ミリアンは、ポルトガルからの移民でしたので、兄弟がいるポルトガルでも葬儀
をすることになったのです」
「田中君も辛いでしょうね」
「しばらく帰れないが、小林さんにがんばってほしいと言っていました」
「ぼくのほうこそ、気持ちはよくわかると連絡しておいてください」
パパは、ママに、そのことを伝えた。
「そうだったの。辛いことでしょうね」
「なにで、みんなこんな目に会わなければならないんだ」パパは大声を出した。
「今日は早くお休みになったら。明日、悠太が見つかるかもしれないわ」
大勢の友だちが、私たちの不幸を取りのぞこうとがんばってくれている。
だから、ここで負けてはいけない。ママは、自分にそう言いきかせた。
翌日、パパは熱があり、ふらふらした。平井先生は、パパを診察して、「小林さ
ん、ぼくらが探してきますから、今日は休んでいてください」と言った。
「いや行きます」
「かなり体力が弱っています」
「大丈夫です」
「そうですか。それじゃ、奥さんといっしょにいるという約束でしたら」
平井先生は、パパが言うことを聞くことはないとわかっていたのだ。
コルコバードの丘に行き、タクシーを下りると、大勢の子供がいた。
ゼジニョやリカルドたちだ。「どうしたんだ?」パパは叫んだ。
「おれたちのほうが慣れているよ」
「いっしょに探してくれるのか」
「そのつもりだ」
「ありがとう」
「そりゃ心強い」田宮さんも喜んだ。
「でも、気をつけてくれよ」平井先生も笑顔で言った。
「それじゃ今日もがんばろう」
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