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[2007/05/04] シーラじいさん見聞録 第1章1 

                 第1章

シーラじいさんは悲しかった。
その悲しみは、若いときに、いや数ヶ月前までできていたことができなくなったと
きに感じた、あきらめが混じった悲しみではないし、
また妻のツーラが先立ったときの一人取りのこされた悲しみともちがった。
腹立たしさと悔しさが混じった悲しさだった。
その悲しさが、心のなかで少しずつ形となっていくのがわかった。
誰でも、自分に起きたことを、心にしっくり受けいれることを学ぶものだ。
それが、生きるということであり、人生というものだろう。
シーラじいさんの場合は、すべてのものは、まず半分のものがあらわれて、それか
ら、あと半分がやってくると考えることにしていた。
出会いなら、別れが、悲しみなら、喜びが、その半分だということだった。そう自
分に言い聞かせて生きてきたのだ。
妻や子供との死別、また自分の晩年を、そうやって受けいれてきたのだ。
いや、そう思えばこそ、ツーラとのときめくような恋愛、
子供たちが生まれたときの父親としての自覚、そして家族に支えられた立身出世の
意欲も、今輝かしくよみがえるのだ。
自分が先に死んでも、妻や子供に、そう思うようにと言ってあったのだが、結局一
人生きることになったのだ。
もちろん、今回のことだってそう思うべきだろう。
しかし、この1ヶ月の間、しっくりいかないまま、大勢の者を振りまわしてしまっ
た。
もうみんなに迷惑をかけられない。これ以上危険を背負わせるわけにはいかない
し、何より生活があるのだから。
しかし、この悲しみに混ざる腹立たしさは何だろう?
確かに、こういうことをする跳ね上がりはいたが、今回は仲間ではないか。ある意
味では、家族以上の者なのだ。
そう思うと、心のなかで形になっている悲しみは、鉛のように重たくなっていっ
た。
とにかく、この悲しみが、今までのようにおさまらないのならば、時間をかければ
いいのだ。
もう老い先も短いが、それもいいだろう。知らないことが心の内にあれば、生きる
気力も沸こうというものだ。
シーラじいさんは、そんなことを考えながら、今日も待っていた。
そのとき、向こうに、ゆらゆらと黒い影が見えた。
最近は目が悪くなっているので、一つの影に見えているが、たくさんの影が重なっ
ているはずだ。
「帰ってきたか」シーラじいさんはつぶやいた。「帰ってくるまで、もう少し日数
がかかると思っていたが」。
影は、シーラじいさんの前に止まった。
すると、その影は、20以上の部分に分かれた。先頭の者が、直立不動の姿勢で叫
んだ。
「シーラじいさん、もとへ、シーラ・デヴォン・ンジャジジャ大佐殿、マウソニ
ア・ベリアシアン・ムズワニ中佐を発見することができませんでした。
ムワリ谷は捜索しましたが、マヨット谷は最後まで捜索できませんでした。以上」
みんな疲労の極に達しているようだった。
職責を果たせなかった自責の念のためか、あるいは、もう一度探せと命令される恐
怖のためか、ぶるぶる震えている者もいた。
「連日の捜索に感謝する。今日をもって捜索を終えてよろしい」
シーラじいさんは、静かに言った。
「了解しました」先頭の者が、そう答えると、他の者も、「了解しました」と叫ん
だ。
「ご苦労だった。ゆっくり休んでくれたまえ」シーラじいさんは、みんなをねぎら
った。
先頭の者は、鰓(えら)を激しく動かすと、すばやく向きを変えた。他の者も、そ
れに倣い、全員で去っていった。
シーラじいさんは、みんなを見送りながら、オーショネッシーも大きくなったもの
だな。
隊長も十分こなせるようになっている。退却にも勇気がいるのだからと思った。
アキレウスやヤマモトもいたようだな。しかし、他の者は、新兵のようで、誰だか
わからなかった。
オーショネッシーのおやじのアーサーは豪胆な兵士だった。
アーサーとマウソニアとわしの3人で、この国を守る気概を語りあった。
そして、休日など取らずに職務についたものだった。まだ結婚する前だったが。
マウのやつとは、子供のときからいつもいっしょだった。家族よりも長くいた。
入隊も結婚も相談をして決めた。気心は誰よりもわかっている。
それなのに、なぜわしに言わず消えてしまったのだ。そして、どこへ行ってしまっ
たのだ。女房や子供を残して。





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