[2007/05/14] 田中君を探して〜パパとぼくの冒険〜第5章42
「おーい、ちょっと来てくれ」という声が上がった。
カトウさんや他の警官たち、そしてパパたちがすぐに駆けつけた。
「どうしたんだ?」カトウさんが聞いた。
「はい、これが動くので、ちょっと気になるのですが」と、その警官が答えた。
カトウさんも、それを押した。がたっという音はするものの、それ以上は動かなか
った。
そこで、全員で、それを押したり、上にもちあげようとしたが、びくともいなかっ
た。
「これは何でしょうか」パパは、カトウさんに聞いた。
「よくわかりませんね。後で、リオ市に聞いてみましょう」
しかし、そのセメントの塊の上部が蓋のようになっているのか気がかりだった。
田宮さんが、汚れている表面をていねいに調べた。すると、草におおわれていた
が、地面から10センチほどのところに、はめこみになっている部分があった。
田宮さんは、警官からナイフを借りて、そこをこじあけた。
すると、縦横5センチぐらいのセメントがはがれた。そこに鍵穴が見えた。
「これは、何かありそうだ」田宮さんは、振りかえって、みんなを見た。
カトウさんは、無線で、ママたちを警備している警官に、
「今からピストルを撃つが、これは、ギャングを撃つのではなく、鍵を壊すためだ
から、心配しないように説明せよ」と言った。
パパたちに、「もし市のものなら、ぼくが責任を取りますよ」と笑って、少し離れ
るように手で合図した。
そして、腰につけていたピストルを取りだし、ゆっくり狙いをつけて撃った。
耳をつんざくような音が、コルコバードの丘にこだました。煙とにおいが立ちあが
った。
カトウさんが、鍵穴を調べると、見事に命中していて、蓋のようになっている上部
が開いた。
カトウさんは、ピストルを構えたまま、4,5段ある階段を下りた。部下の警官
も、どんな状況にも対応するため、ピストルを構えた。
下りたところにも、またドアがあり、鍵がかかっていた。
カトウさんは、その鍵を壊すために、もう一度ピストルを撃った。
ちょうどその1時間ほど前から、ウエスレイさんの様子がおかしくなった。
呼吸が荒く、体も冷たくなっていた。
ぼくらは、「ウエスレイさん」と声をかけたが、返事はなかった。
数日前から、うなされていて、「どうしましたか?」と声をかけても、何かつぶや
くだけになっていたのだ。
そのとき、バーンという音が聞こえた。ぼくらは、何が起きたのかと顔を見あわせ
た。
マルコスさんは、「ピストルの音だ」と言って、階段を上がって、ドアに向った。
もし、ギャングだったら、ここへ入らせないようにしなければならないからだ。
そこへ、フォフォが、今まで聞いたことのないような鳴き声を出してあわてて帰っ
てきた。
そして、窓から一気に下に飛びおりた。ぼくらに、早く危険を教えたかったのだろ
う。
ピストルの音は、もう一度聞こえた。しかも、すぐ近くだったので、ルーカスが、
ぼくに抱きついてきた。ぼくも、心臓が飛びだしそうだった。
ジューニオルさんは、マルコスさんのほうへ急いだ。ぼくも、ルーカスと、ドアの
ほうを見上げた。
ドアが、がたがたと揺れた。そして、「警察だ。誰かいるか?」いう声が聞こえ
た。
「病人がいるんだ。すぐに病院へ運んでくれ」マルコスさんは、大声で叫んだ。
ドアが開いた。ピストルを構えたものが、次々に下りてきた。
先頭にいたのがカトウさんだった。カトウさんは、中を見回し、すぐに救出を命令
した。
そして、無線で、「人質を発見した。すぐに救急車を用意しろ」と命令した。
屈強な警官が、すぐにぐったりしているウエスレイさんを背負って、階段を上がっ
ていった。
ドナ・マリアさんも背負われた。その後、ルーカスが抱えられた。そして、ぼくも
背負われて階段を上がった。
ジューニオルさんとマルコスさんも続いただろう。フォフォも、誰かが連れてでた
ことだろう。
ぼくが外に出ると、「悠太」という声が聞こえた。
パパの声だ。ぼくは、声のほうを見たが、真っ白で何も見えなった。外に出る間に
警官が、タオルをぼくの目に巻いていたのだ。
これは、長い間暗いところにいて、急に明るいところに出ると、
目に障害が出るらしいが、小さい窓だったが、光が入っていたので、それは大丈夫
だった。
ぼくは、タオルをはずした。「悠太、よくがんばった」という声が聞こえた。パパ
が、すぐそばにいた。
ぼくは、「ああ、パパ」としか言えなかった。
「悠太君、よかった」という声が聞こえた。パパの横を見ると、平井先生と田宮さ
んもいた。
その後、警官は、飛ぶような勢いで救急車のほうへ走った。
パトカーと救急車のサイレンが聞こえていたが、すぐにヘリコプターがすぐ上を飛
びまわったので、その音しか聞こえなくなった。
林を出ると、何十台というパトカーや救急車が集まっていた。
そのまわりには、大勢の人々が取りかこみ、何か叫んでいた。
その中で、ぼくは、「悠太、悠太」という声を聞いた。あれはママの声だとわかっ
たが、ぼくは、そのまま気を失ってしまった。
また「悠太、悠太」という声がした。
少し薄目を開けると、確かにママがいる。
ぼくを見て笑っている。「ああ、ママ」と声をかけると、どこからか「よかった
わ」という女の人の声が聞こえた。
これは、誰だろうと、そちらを見ると、美奈子のお母さんだとすぐわかった。
「悠太君」
「ユウタ」
「お兄ちゃん」
美奈子も、マリアナも、のぞみも、ぼくを見て笑っている。
ぼくは、美奈子とマリアナがいっしょにいるのが、ちょっと居心地が悪かった。
こんなときに、何を考えているのだ。ぼくは笑いたくなった。
そのとき、「悠太、よかったな。みんな心配して、お前を探してくれたんだ」とパ
パが言った。
今度は涙が自然に出てきた。みんなの声が聞こえたが、もう顔はわからなくなっ
た。
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