[2007/08/13] シーラじいさん見聞録 第1章11
シーラじいさんは身構えた。
しかし、これは、何回も経験したことがあるので、じっとしていた。
国では、地下にいる何かが、体を動かすので、地面が揺れるのだと思われていた。
しかし、国は、大きな岩に囲まれているので、小さな岩が倒れることがあっても、
しばらくすれば、また何事もなかったように静かになった。
ここでも、そうだろうと思っていると、案の定、数分で揺れはおさまった。
しかし、何か音がしているような気がした。
何か重そうなものが、暗黒の中を落ちてきて、何かにぶつかっているようなのだ。
それが、何回も続いた。
自分は、気を失って、かなり落ちてきたようだ。
ひょっとして、地下にいる何かより下にいて、それが、今、上で動いているのかも
しれないと思うと不安になってきた。
かなり静かになったが、ときおり、100気圧以上の水圧を押しわけて、何かが落ち
てくる気配が伝わってきた。
そのとき、シーラじいさんとわたしたちの後ろに、「それ」がふいにどんと落ちて
きた。
しかも、「それ」が、次から次へと続いて落ちてきるのがわかったので、
わたしたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げた。
わたしたちも、海底を揺るがしたのは、そこに住む魔物のように思っていたから
だ。
わたしたちは、遠くまで逃げて、岩陰から、「それ」を見た。
しかし、よく見えないので、おそるおそる近づいていった。
「それ」は、どうやら10個近くあって、重なっているのもあった。しかもじっとし
ていた。
心臓が破裂しそうなほど脈打っていた。誰かが、「これは石だ」と叫んだ。
「それ」は、1メートルから2メートルぐらいの石だった。
今の地震でトラフの石が崩れてきたのだろう。トラフは、舟状海盆といって、細長
い溝になっている場所だ。
その下では、地殻や海底を支えているプレートとプレートがぶつかりあっているの
で、地震は頻繁に起きているのだ。
シーラじいさんも、わたしたちの後から逃げてきたようだが、こんなことは初めて
だったようで、ひじょうに驚いたようだった。
落ちてきた石のまわりでは、魚の影が動いていたが、混乱している様子だった。
今までより大きな地震だったのだろう。
そのとき、妙な影があらわれた。
すぐに「ヌタウナギが来ている」とか「ダイオウグソクムシだ」という声が聞こえ
た。
ヌタウナギ!シーラじいさんより古くから海にいて、目は退化しており、骨もほと
んどなく、歯のついた舌で、肉を削りとって食べる魚だ。
そしてサメなどの敵が来ると、ヌタという粘液で身を守るのだ。
確かに灰色がかったウナギのようなものが5,6匹、石の近くを泳いでいた。
また、30センチぐらいはあるムカデのようなものも続々と集まってきていた。
あれが、ダイオウグソクムシなのだろう。
どちらも、死骸のにおいを察知することができるのだ。ということは、落ちてきた
石の下敷きになった者が大勢いるのだろうか。
シーラじいさんは、この惨状から早く逃げたかった。すると、命を救ってくれたエ
イの仙人を思いだした。
「そうだ。わしを助けくれたのに、すっかり忘れていた。大丈夫だったろうか。
わしに食料をもってきてくれた後、『元気になったら、大いに語ろうじゃないか』
といって、また仰向けに砂にもぐっていったまではおぼえているが」
シーラじいさんは、また自分がいた場所までもどり、エイの仙人がいた砂地を探し
たが、誰かいる様子はなかった。
しばらくすると、大勢の魚が集まってきた。
この惨状を聞きつけて、仲間の安否を心配しに来たのだろうか。
何匹かのエイも、マントを広げたように、シーラじいさんの上を泳いでいた。
仙人の仲間も心配して探しているのだ。
シーラじいさんも、仙人を探しつづけた。
やはり、石の近くには、かなり魚が死んでいて、ヌタウナギやダイオウグソクムシ
だけでなく、小型のサメも、われがちにそれらにたかっていた。
シーラじいさんは、心配になってきた。わしのせいで、こんなことになったのかと
さえ思った。
そのとき、「おじいさんがいた!」という大きな声が聞こえた。
シーラじいさんは、その声のほうへ急いだ。すると、仲間のエイだけでなく、大勢
の魚も集まっていた。
大きな石の横の砂地に仙人は仰向けに横たわっていた。
腹にある7対の鰓(えら)は、かすかに動いていた。生きているらしい。
しかし、尾のほうが石に挟まれて身動きが取れなくなっていた。
仲間や魚たちは、大声を出して、仙人を励ましたり、自分の意見を言ったりしてい
たが、シーラじいさんは、これでは助からないだろうと思った。
その場を離れて、状況を見た。
2メートル近い石は、とても動かせそうになかった。
そこで、石の裏手にまわってみた。海底は砂地ではなく小石を敷きつめたようにな
っていた。
しかし、かなり下りになっていた。
シーラじいさんは、何かを思いついたように、すぐにみんながいるところへもど
り、「みんな聞いてくれ!」と叫んだ。
みんな振りむいた。
「わしは、ここの住民ではないが、この仙人に命を救われた。
わしは、どうしてもお返しをしたい。今、石の後ろ側を見たが、底は下りになって
いる。
そこを掘ったら、石は、反対側に転がって、仙人を助けることができるかもしれな
い。
みんなで力を合わせて、掘ってくれないか」
すると、「やろう」、「やろう」という声が上がった。
|