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[2007/08/27] シーラじいさん見聞録 第1章13 

仙人のことを聞いた魚が次々と集まってきた。
ソコダラやソコクロダラ、トカゲギスなど、寝ずに救助をした者だけでなく、今ま
で見なかったエソの仲間などもいた。
仙人を見て、泣く者もいたが、ほとんど押し黙ったままだ。
シーラじいさんは、一人で帰っていった。そして、何も考えずに寝ることにした。
翌日、岩場で目を覚まし、大通りに出てみた。動きだしている魚はいたが、まだ朝
早いこともあって、静かだった。
名残惜しいが、このまま出ていくことを決めていた。
体は思わしくなかったが、年を取って、疲労がたまっているのだから、こんなもの
だろう。
上がっていくのは辛いが、まっすぐ落ちてきたはずだから、休みながらも、まっす
ぐ上に行けば、国に帰れるだろう。
そのとき、上のほうで何かを感じた。
見上げると、真ん中あたりで、淡い小さな光がある黒い影が、ゆっくり下りてき
た。
それは、「もうお目覚めでしたか?」と聞いた。
シーラじいさんが、目を細めて見ると、頭が三角形で、目がぎょろりと大きいトウ
ジンだった。
すると、腹で光っていたのは、発光バクテリアを利用した発光器なのだろう。
「お疲れは出ていませんか?」
そうだ、その声は、仙人を助けるために陣頭指揮を取り、石を取りのぞいたあと、
仙人の腐りかけた部分を切りとるという行動に出た、あのトウジンだった。
「いや、わしは元気です。それにしてもお気の毒でした」シーラじいさんは、頭を
下げた。
「みんな、あなたに感謝しています。あなたがいてくれたので、残念な結果になり
ましたが、私たちは、仙人に恩返しをすることができました」
「もう少し早く助けることができたら、こんなことにならなかったかもしれんが」
「そうです。ほんとに生きていてほしかったと思います。
ここでは、みんな毎日毎日喧嘩ばかりしていたのです。
『あいつが、わしのものを取った』とか『わしの縄張りに入ってくるな』とかいが
みあってばかりいました。
見かねた仙人は、真上で落ちつきなく動きまわる者に、『お前たち、この世で、一
番大事なものはなんじゃ?』と聞いたのです。
『そりゃあ、自分の家族でさあ』と答える者がいると、『喧嘩相手も、そう思って
いるにちがいないぞ』と言うのが常でした。
それを聞いた者は、『そんなこと言ったって』と、どこかへ行ったものですが、
だんだん喧嘩が少なくなり、みんなのんびり暮らすようになりました」
「そりゃすごい」
「でも、みんなが納得したのは、仙人に、聞く者をひきつける何かがあったからで
しょう」
トウジンは、そこで言葉を切った。
「そこでお願いがあるのですが」
「何?」
「みんなのために、ここで暮らしていただけませんか?」
「えっ」
シーラじいさんは驚いた。そして、困惑した表情で答えた。
「ありがたい話だが、わしは、仙人の代わりができる器じゃない。
それに、大事な用事を残している」と、親友のマウじいさんを探していることを話
した。
「そうでしたか」トウジンは、残念そうに言った。
「それで、わしは、今日旅立とうと思っている」
「もう少しゆっくりするわけにはいかないのですか?」
「そう思ったのじゃが、体力が残っている間に、探さなければと決心した」
そのとき、トウジンの奥には、たくさんの影があるのに気がついた。
しかも、小さな影もたくさんあった。
シーラじいさんの考えを早く知りたくて、多くの魚が、ここまで来たのだろう。子
供もついてきたようだ。
しかし、シーラじいさんの話を聞いていたようで、みんな黙っていた。
それに気がついたシーラじいさんは、「みんな来てくれたのか。仙人はいなくなっ
てしまったが、仙人のことを忘れず、元気に暮らしてくれ」と声をかけた。
「おじいさん、ありがとう」と子供の声がした。
すると、それが口火を切ったように、「お国のことがすんだら、またもどってきて
ください」、「あなたのことは一生忘れません」という声が上がった。
「ありがとう。みんなのことは忘れないぞ。それじゃ、わしは、ここでお暇(いと
ま)をする」
シーラじいさんは、ゆっくりと動きだした。
たくさんの影が一つになって、シーラじいさんの影が暗闇に消えてしまうまで見送
った。
シーラじいさんは、上をめざして進んだ。
下を見ると、もうみんなの影はどこにも見当たらなかった。
胸鰭が一つないので、動きがぎくしゃくしているが、力を入れて懸命に浮きあがっ
た。
ああ、なんというやさしい者たちだろう。道草を食ってしまったが、幸せな時間だ
った。
国を出てしまったとき、しーんと静まりかえった暗黒の世界に心細くなったが、偶
然とはいえ、あんなににぎやかで、あたたかい国があったとは!
マウも、どこかの国で世話になっていたら、わしも安心なのだが。
ときおり小さな影に混じって、びっくりするほど大きな影に出あうことがある。イ
ルカかクジラだろう。
襲ってくることはないが、またぶつかったら今度は一巻の終わりだ。
それで、まわりを見ながら、上をめざした。もしマウじいさんを見つけたら、こん
な幸運はない。
遠くで、ウリクラゲやホオズキクラゲの仲間が、色とりどりの光を放ちながら通り
すぎる。






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