[2007/09/17] シーラじいさん見聞録 第1章16
「あそこにも島がある」
シーラじいさんは、呆然と立ちすんだ。
崖がそそりたち、その上には、鬱蒼とした森が広がっているのが見えた。
「他にも島があったのか。大きな島と聞いていたが、『大きい』という言葉は、
『きれいな』とはちがって、他の島と比べて使う言葉なのか」
「しかし、あっちのほうが大きいとしても、あそこから流されてきたとはとても信
じられない。何十キロとありそうだからな」
シーラじいさんは考えに窮した。
もし、この島の下に国がなければ、もう生きて国に帰れないとさえ思った。
波は穏やかで、空は晴れわたっていた。
ときおり気持ちのいい風がサッーと吹くだけだった。鳥が甲高い声で鳴きながら飛
んでいった。
小さな魚が、シーラじいさんを、不思議そうに見ていたが、すぐに去っていった。
そのとき、遠くに見える島のほうから、波が盛りあがって近づいてくるのが見え
た。
シーラじいさんは、逃げることもせず、何が来るのか見ていた。
波は、どんどん近づいてきて、シーラじいさんを激しく動かした。
波の真ん中は、真っ黒だった。どうやら大きな魚の群れのようだった。
群れは、シーラじいさんのそばを通りすぎていった。
もう終わったかと思っていると、最後のほうにいた魚が、立ち止まって、声をかけ
てきた。
「どうかされましたか」マグロのようだった。
シーラじいさんより大きな体のようだった。
丸い大きな目が、シーラじいさんを見ていた。黒々した背中が、日の光を浴びて、
金色に輝いていた。
「いやあ、迷ってしまいましてな。
大きな島の下に、わしの国があるのだけど、てっきりここだと思っていると、
向こうにも島があるのに気がついて、さて、どっちかなと考えているところで」
「大きな島?」
「そう聞いている」
「ここらには、四つの島がありますが、わたしらが向っているところには、とてつ
もなく大きな島がありますが」
「とてつもなく大きな島!」
「そうです。ここにある島の何百倍も大きいです」
「何百倍!そこは遠いのか」
「わたしらで一日ぐらいです」
「忙しいときに、よく教えてくださった」
そのマグロは、あっという間に消えた。群れに追いつくために急いだのであろう。
シーラじいさんは、マグロが向ったほうを見ていた。
あんなにふうに泳げたら、まちがっていても、すぐにもどれるのだが。それにして
も、「とてつもなく大きな島」か。
わしらの祖先が、どこからかここへ来たとき、後に続く者たちのために、大きな島
を目印にしたはずだ。
それが、「とてつもなく大きな島」かもしれない。一か八か。そこをめざそう。
シーラじいさんは、すぐに戻ることにした。こんな穏やかな日は、疲れることが少
ないと考えたからだ。
「海の終わり」から5,6メートル下を、島の崖に沿って進んだ。そして、浅瀬を
避けるため、島から離れることにした。
しかし、方角を間違わないようにするため、ときおり「海の終わり」まで出てき
た。
1時間ほど進むと、左に島が見えてきた。
あれが、「とてつもなく大きな島」かと思ったが、先ほどの話を考えても、どうも
ちがうようだ。
しかも、4つの島の向こうと言っていたはずだ。
その島を左手に見ながら進んだ。もうくたくたになっていたが、暗くなる前に行け
るところまで行きたかった。
今度は、前方に何かが見えてきた。あれも島だが小さい。よし、これで4つの島を
見たことになる。
この島を越せば、「とてつもなく大きな島」が見えてくるはずだ。
気がつくと、あたりは薄暗くなり始めていた。体力も限界になりつつあったので、
前にある小さな島で泊まることにした。
うまい具合に大きな岩が林立している場所が見つかった。すぐに休むことにした。
翌朝、目覚めると、外の様子を見るために、すぐに上に行った。
夕べは、ぐっすり眠ったらしい。もう太陽は高く上がり、波がきらきら輝いてい
た。
しかし、まだ疲れが残っていて、すぐに出発できそうになかった。それで、もうし
ばらく休むことにした。
次に目覚めて、上に行くと、太陽は、かなり上まで登っていた。
もうそろそろと思っていると、「こんなとこで出会うとは!」という野太い声が聞
こえた。
シーラじいさんが振りかえると、巨大なカメが、大きな目をぱちくりしながら、こ
っちを見ていた。
カメは、今まで何回も見たことはあったが、こんなに近くで、しかも話をするのは
はじめてであった。
「いや、国に帰るところで」シーラじいさんは、どぎまぎして答えた。
「お前さんたちのことは聞いたことがある。わしらよりずっと前からいるのに、変
わることなく生きておられる。それは誰にでもできることではない」
「ただ、臆病なだけじゃて」
「いや、お前さんたちがいるというだけで、わしらは心が安らぐ。ところで、どう
してこんな遠くまで?」
「ちょっと迷ってしまって」
「でも、お前さんたちは、大陸の近くの島の下に国があるのだろう?」
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