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[2007/10/08] シーラじいさん見聞録 第1章18 

そこには、マグロのような形の影がぽつんと浮かんでいた。
誰かが、「あれはイルカだな。種類はよくわからないが」と小声で言った。
イルカは、クジラの仲間だが、どちらも声を出して、食料を探したり、コミュニケ
ーションをしたりしているといわれている。
カリカリという音で、物の形状を判断するクリック音と、ピーピーという音で、仲
間と連絡を取りあうホイッスル音を出すことは、わたしも知っていた。
しかし、ウォー、ウォーと悲しそうに泣くのは初めてだった。
クジラの仲間は、大昔陸上に上がったことがあるために、そういう能力が身につい
たかどうかは知らないが、かなり知能はあるようだ。
海の主ともいえるウミガメから聞いたところでは、この子供のイルカは、家族とは
ぐれたらしいから、声を出して、親兄弟を必死で探しているのはまちがいがない。
しかし、嵐も止み、波も静かになっているから、その声は、驚くほど遠くまで届い
ているだろう。
同じように迷子になった子供は、すぐに親が駆けつけたというから、この子供もす
ぐに会えるだろう。
それで、シーラじいさんも、「もうすぐみんなが迎えにくるからな」と慰めてい
た。
しかし、そのイルカは、シーラじいさんに返事をせずに、またウォー、ウォーと声
を上げはじめた。
シーラじいさんは、これは泣きじゃくっているのではなく、「ぼくはここにいる
よ」と連絡を取っていることがわかっていたので、何も言わず横にいた。
疲れていたが、約束した以上、ここを離れるわけにはいかなかった。
何かきらっと光ったようだった。シーラじいさんが薄目を開けると、遠くの水平線
に太陽が出る瞬間だった。
朝になったかと思うまもなく、オレンジ色の光が、何もさえぎるものがない大洋に
一気に広がっていった。
やがて、無数の波に反射する光が、目を開けておられないほどまぶしくなった。
あまりにも疲れていたのか、浮かびながら、うつらうつらしたようだ。
シーラじいさんは、昨夜のことを思いだして、あたりを見渡した。
子供のイルカは、オレンジ色に染まって、まだそこにいた。
イルカは、どんなときも穏やかな顔をしているものだが、そのイルカは、穏やかな
顔の中にも、子供らしく幼い表情をしていた。
「親は来なかったのか?」シーラじいさんは声をかけた。
しかし、返事をしなかった。
「そいつは困ったな」独り言のようにつぶやいた。
「あのウミガメのじいさんが、できるだけ早くもどってくるといっていたが、それ
まで待つべきか。
しかし、この子供も辛いだろう。
どこか島に行けば、誰かに聞けるかもしれない。
しかし、どこを見ても、何も見えない。ただ、海が広がっているだけだ。
わしらは、相当流されてきたのだろうか。じいさんに、ここはどこか聞いておくべ
きだったな」
シーラじいさんは、近くをゆっくり動いているイルカに声をかけた。
「ぼうや、おまえの家族を探しにいこうか。ここにずっといたのに会えないのは、
遠くで、おまえを探しているかもしれないからな。
どこかに島があれば、大勢集まっているはずだから、わしが聞いてやるよ。
しかし、わしは年を取っているし、今度の嵐で、だいぶ体を痛めてしまったので、
早く動けない。
だから、足手まといだと思ったら、先に行ったらいいぞ。話し相手ぐらいにはなれ
るがな。もっとも、としよりの話はおもしろくないだろが。わっはは」
シーラじいさんは、このイルカの励まそうと、少し饒舌にしゃべった。
そして、思い切って泳ぎはじめた。
イルカは、シーラじいさんの考えがわかったのかついてきた。
イルカは、子供とはいえ、家族といるときは飛ぶように泳ぐことができるが、シー
ラじいさんに合わせた速度で泳いだ。
シーラじいさんが疲れて休むと、どこかに行った。ウォー、ウォーという声を出し
ているのが聞こえたが、しばらくすると、また帰ってきた。
休みながら、遠くを見たが、島影と見えたものは、人間が作った船であることはわ
かるようになっていた。それは、かすかに動いていたからだ。
何回かそのようにして島を探しつづけた。
途中、誰かに聞こうにも、小さな魚は近づかないし、大きな魚は、急いで通りすぎ
ていった。
シーラじいさんは、立ち止まって、イルカのほうに振り返った。
「わしは、どうもあわてすぎたようだな。
『過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し』という言葉があるから、ここは、少し考
えたほうがいいかもしれないぞ」
「そこで、日も暮れてきたことだし、今日はここまでとして休もうじゃないか。
明日は、いいことがあるかもしれないからよ」
「おまえは、疲れていないのか。どこかに浅い海底があればいいのだがな」
すると、イルカは、勢いよく海にもぐっていった。
数分すると、「見つかった」というようにシーラじいさんのほうを見て、うなずく
ようにした。
シーラじいさんは驚いたが、イルカについていった。斜めにもぐっていくと、海底
火山のようなものがあった。
頂上には、岩場が広がっていた。
「よくわかったな。すまないが、しばらく休ませてもらうよ」
そういうと、体を岩に乗せ、すぐに眠りについた。
しかし、イルカは、またもどっていった。





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