[2007/10/15] シーラじいさん見聞録 第1章19
カリカリ、キリキリというような音が聞こえた。
シーラじいさんは目が覚めた。ゆっくりあたりを見回したが、暗闇には、クラゲが
光を放ちながら、ふわふわ泳いでいるだけだった。
しかし、カリカリ、キリキリという音は、だんだん大きくなってきた。
「これは、クリック音だ」と倉本さんが言った。
わたしは、今までダイビングをしたことがなかったので、こういう音を聞いたこと
がなかった。しーんとした中で、かなり響く音だ。
その音は、どんどん近づいてきた。すると、暗闇に、黒い影が突然あらわれた。
「ああ、帰ってきてくれたんだな」シーラじいさんは大声を出した。
「家族には出会えなかったか?」
その影は、少しうなずいたように見えた。
しばらくして、「おじさん、疲れは取れたの?」という声が聞こえた。
シーラじいさんは、信じられないよう顔で、イルカを見た。
「ああ、ようやくしゃべってくれたな。おまえは、また一晩中起きていたのか」
「いや少し眠った」
「そうか、それはよかった」
シーラじいさんは、話を続けるために、「こんないいところをどうしてわかったの
だ?」と大きな声で聞いた。
「こんなふうに音を出せば、形や大きさがわかるんだ」子供のイルカは、そう言う
と、カリカリ、キリキリという音を出した。
「そうか。前に、そんな音は聞いたことがあるけど、おまえたちが話をしていると
思っていた」
「それは、こんな音だよ」イルカは、ピーピーというような音を出した。
「それはすごい能力だな」
「パパやママは、どんなに遠くのものでもわかるし、どんなに離れていても話がで
きるんだ。
お兄ちゃんも、だんだんできるようになってきた。ぼくと妹は、今練習していると
ころなんだ」
「わしらも、近くならできるけど、遠くは無理だな」
シーラじいさんは、ウォー、ウォーという鳴き声のような音については聞かないよ
うにした。
「それじゃ、またおまえの家族を探そうじゃないか」そう言うと、「海の終わり」
に向って及びだした。
夜明けまでは時間がありそうだった。空には、無数の星が、まだ輝いていた。
「ところでおまえはなんていう名前だ?」
「名前?」
「名前はないのか」
「名前って?」
「あそこに、きれいなものが光っているだろう」
「・・・」
「あれは、星という名前だ」
「星」
「星にはさらに名前がある」
「どうして?」
「あんなにもたくさんあるから、他の星と区別するため、一つずつ名前がある」
イルカは、黙って満天の星を見上げていた。
「じゃあ、おまえにも名前をつけてやろう。オリオンはどうだ」
「オリオン?」
「あそこに、大きな星が二つ見えるだろう?それぞれの横に星があって、また、そ
の間に、三つの星がある。
全体で、狩人の格好をしている。それをオリオンといっている」
「じゃあ、たくさんの星で、一つの名前になっているの?」
「そういうことだな。しかし、おまえは、小さいのに賢いなあ」
「オリオンは、何をしているの?」
「わしも詳しくは知らないが、オリオンは、優秀な狩人だったが、乱暴者だったの
で、神様が、さそりを使って殺したらしい」
「神様って?」
「神様とは、わしらを作ったお方じゃ」
「でも、殺されるのはいやだよ」
「神様は、オリオンを殺したことを後悔したのだ。
だから、一番輝く星にして、永遠に生きるようにしたかもしれないぞ。誰にでも、
まちがいはあるものだからな」
シーラじいさんは、その子供のイルカが、オリオンという名前を気に入ってくれた
ようでうれしかった。
すると、「おじさんの名前は?」と聞いてきた。
「わしか。わしは、ほんとはおじいさんで、みんな、シーラじいさんと呼んでい
る」
「シーラじいさんは、どこから来たの?」
シーラじいさんは、オリオンに、自分の国で起きたことや、その後エイの仙人に助
けられたことなどを語った。
話しおえたとき、朝陽がさっと昇った。
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