[2007/10/22] シーラじいさん見聞録 第1章20
シーラじいさんは、思わず目をつぶったまま、大きな声を出した。
「さあ、オリオン、みんなが起きてこないうちに出発するぞ」
そして、目を開けて、あたりを見まわした。
波は金色に輝き、静かに揺れていた。満天の星は、すべてどこかに消え、白っぽい
月だけが取りのこされていた。
島影は、どこにも見えなかった。
シーラじいさんとオリオンは泳ぎだした。
ウミネコのような鳥が何十羽と、大きな鳴き声を出しながら、空を飛んでいた。
夜は、何も見えないから、朝早く動くことにしたが、島が見つからないのならどう
しようもない。
こうなったら、誰かに聞くしかない。
シーラじいさんは、鳥たちは、どこかの島に住んでいるということを聞いたことが
ある。
だから、鳥の行く方向に行こうかと言った。
それで、鳥の様子を観察することにした。
しかし、鳥はさらに増えたが、三々五々甲高い声を出しながら空を飛びまわってい
るだけだった。早朝になったので、魚を求めているだけのようだ。
「ああ、だめだ。それなら、星を見て方角を決めるしかないのか」とシーラじいさ
んはつぶやいた。
「星を見てわかるの?」
「そうだ。星は同じ場所にあるから、それを見て、自分たちが、どっちへ、どれく
らい動いたかわかるのだ」
「シーラじいさんは、何でも知っているなあ」と、オリオンは感心したように言っ
た。
「なあに、聞いたことがあるだけで、実際は何もできない」
「誰に聞いたの?」
「人間だ」
「人間?」
「人間か。
わしらがいる海も、島も、そして、島より大きい大陸も、地球という大きくて丸い
ものにあるのだが、そこには、何万種類という生き物がいる。
人間は、その一つだ。しかし、人間は、飛びぬけて頭がいい動物で、たくさんのこ
とを知っていて、さらにもっと知ろうと思っている。
だから、わしらは、海の奥深くにいるが、人間が落としたものを拾って、いろいろ
知っているというわけじゃ」
「人間は、昔からいるの?」
「いや、わしらよりずっと後から生まれきたようじゃ。
しかし、道具を作って、他の動物だけでなく、自分たち同士も殺しあって、地球の
どこにでもいるようになった」
「道具?」
「ときどき海で見る、どんな魚より大きい船というものや、空を、鳥のように飛ん
でいる飛行機というようなものだ」
「ああ、あれが人間か」
「知っているのか?」
「お兄ちゃんが、その船というものが起こす波を飛びこえて遊んだと言っていた。
今度、ぼくと妹を連れていってやろうと約束してくれていたんだ」
「それは楽しそうだな」
「でも、パパとママには内緒なんだ。
昔、人間は、ぼくらを殺したり、どこかに連れていくこともあったから、船には近
づくなと言っているからなんだ」
海は、鳥の鳴き声が聞こえるだけで、しーんとしていた。
オリオンは、今は悲しそうに泣くことをしなかったが、時々、びっくりするほど高
く飛びあがり、空中で体をくるっと一回転させてから、ざぶんと海にもどってき
た。
大きな波が起き、シーラじいさんの体は、大きく揺れた。
「すごいことができるんだな。オリオンは」
「飛び上がってから体を回せば、一度にあちこち見られるんだ。
お兄ちゃんもすごいけど、パパは、鳥を捕まえられるぐらい飛びあがることができ
るんだ」
オリオンは、得意そうに言った。
「そうして飛び上がれば、島はすぐに見つかるな」
シーラじいさんは、そう言ったかと思うと、大きな声で叫んだ。
「見ろ。あれは、おまえの家族じゃないか!」
向こうに、何か大きなものが5,6頭泳いでいた。
「すぐに行ってこい!」
オリオンは、何も言わずあわててそっちに向った。
あれが、オリオンの家族なら、今頃再会を喜んでいるだろう。
しばらく待って、オリオンが帰ってこないなら、わしは一人で行くとしようと考え
ていた。
すると、カリカリ,キリキリという音が聞こえてきた。
波が盛りあがり、それがこっちに向ってきた。
「オリオン、帰ってきたのか。あれは、おまえの家族じゃなかったのか」
「ちがっていた。パパたちのことを聞いても知らないと言っていた」
「それは残念だったな」
「おじさんは、わしらについてきたらと言ってくれたが行かなかった」
「おまえは、わしのことを心配して帰ってきてくれたのか」
オリオンは、ただうなずいただけだった。
二人は、また動きだした。
ときどきオリオンは、高く飛びあがり、くるっと一回転して、あたりを見まわし
た。
昼過ぎ、飛びあがったオリオンが、シーラじいさんに叫んだ。
「シーラじいさん、向こうからへんなやつが来る。すぐに海の奥に行くんだ!」
シーラじいさんは、それが何か聞きたかったが、言われるままに海にもぐった。
その瞬間、3メートルはあるかと思われる、黒々したものが、ものすごい勢いでシ
ーラじいさんを追った。
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