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[2007/11/05] シーラじいさん見聞録 第1章22 

そのとき、すぐ上で、ドーンと何かがぶつかった音がした。
割れた岩のかけらがぱらぱらと落ちてきた。
さらに地響きのような音は続いた。
サメどもが攻撃を開始したようだ。
よほど腹が減っていると見える。仲間を呼んでも、十分な分け前があると踏んだよ
うだ。
確かに、わしののろまな動きは、もってうまれたものだが、
その上、胸鰭(むねびれ)が一つないために、さらに滑稽なほどのろいので、今に
も腹を見せて死んでしまうようだと判断したのだろう。
今自分がいるのは岩と岩の間の狭い根っこなので、あいつらもここまで入りこんで
はこれまいが、
近くの岩の間にいるオリオンは、動きまわらなければいけないので、ここよりかな
り広い場所にいるはずだ。
そうすると、体の柔らかいあいつらのことだ、その隙間に入ることに気がついたら
やっかいだ。
シーラじいさんは、そう案じた。
ときおりカリカリという音が聞こえている。オリオンは、あたりを偵察しているよ
うだ。
「おーい、オリオン」岩にぶつかる音の音の間に、シーラじいさんは呼びかけた。
「シーラじいさん、ぼくは、ここにいますよ」オリオンは、元気な声で答えた。
声からは心配なさそうだ。
「おまえは、動いていなければならないのだけど、そこは苦しくないのか?」
「大丈夫ですよ。ここは洞窟のようになっていて、あいつらは入ってこられないと
思います。
しかも、かなり広いので、体をずっと動かすことができます」
「わかった。でも、すぐにここを抜けだすことを考えなくっちゃな」
「シーラじいさん、何か妙なものが近づいてきているんです」少し間があったが、
オリオンは早口で言った。
カリカリという強い音が響いた。
「どんなものだ?」
「なにか長いもので、くねくねとこちらに向かってきます。それに、ちいさなもの
がのそのそと歩いてきます」
「ははあ、そいつらは、死肉あさりのヌタウナギとオオグソクムシだろう。こんな
ところにもいるのか」
「そんなに危険なものには思えません」
「そうだ。そいつらは、どこからともなくやってきて、死肉を見つけると、口や肛
門から入りこんで、肉をすっかり食いつくすやつらだ」
「ぼくの近くまでやってきました」
「どうやらおまえはだいぶやれているようだな。
わしは、どうなってもいいが、おまえはまだ子供だ。まだ未来がある。なんとか助
けたい」
「ぼくは、どこもやられていないようですが」
「わしが、あいつらに向っていくから、おまえは、その間に逃げろ。後で会おうじ
ゃないか」
また、ドーンという音がすぐ近くで響いた。
「シーラじいさん、やつらは、血のにおいに敏感だと言っていましたね」
オリオンは、シーラじいさんの提案には答えないで、別のことを聞いて来た。
「そうだ。それで、仲間もすぐに集まるのだろう」すぐにも飛びだそうとしていた
シーラじいさんは、とどまって、オリオンに答えた。
「それなら、今近づいてきているものの血を嗅がせましょう」
「どういうことだ?」
「こいつらの血を嗅いで寄ってくる間に逃げましょう」
「しかし、そいつらは一筋縄にはいかないぞ」そう言ったとたん、うわっーという
叫び声が聞こえた。
シーラじいさんは、あわててオリオンのいる岩の間に駆けつけた。
「オリオン、どうしたんだ?」
「噛みつこうとしたら、気持ちの悪いものがあたりに広がりました」
「そうだろう。そいつらは、敵に攻撃されると、ヌタというものを出して、敵の動
きを封じこめるのだ。サメでも、ヌタに閉口するようだ」
オリオンは、呆然自失したように、返事もせず、そこを動こうとしなかった。
何匹かいたヌタウナギやオオグソクムシも、逃げて、どこにもいなかった。
まだヌタが残っていて、動きにくかった。
しかし、オリオンをこれ以上ここにおいておけないので、シーラじいさんは、オリ
オンが考えた作戦を進めることにした。
岩の間を出て、サメが来ないか用心しながら、小さな魚を探しまわった。ようやく
海底に潜む魚を捕まえた。
それをくわえて、洞窟にもどった。そして、洞窟の入り口に、動かなくなった魚を
置いて、オリオンに声をかけた。
「オリオン、こいつの血で、すぐにあいつらが来るから、すぐに逃げよう」
「わかりました」
「急げ」
案の定、何かが近づいてくる気配がした。
シーラじいさんとオリオンは、そこを出て、まず反対側に回った。
そして、なるべく察知されないように岩の根元を進んだ。海山が終ったとき、すぐ
に「海の終わり」に向った。





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