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[2008/01/14] シーラじいさん見聞録 第1章27 

3つの影は、濃紺の海の中を吸いこまれるように小さくなっていた。
しかし、一番小さな影は、遅れがちで、動きもぎくしゃくしていた。
シーラじいさんは、オリオンとマグロの子供に必死でついていこうとしていた。
その子供は、母親と妹が心配なのか、後ろを振りかえることもせず、先を急いだの
だ。シーラじいさんは、とうとう二つの影を見失った。
とにかく下に向かうことにした。しばらくすると、案の定、キィ、キィという声が
響いた。
オリオンがもどってきた。
「シーラじいさん、大丈夫ですか」
「オリオンか、大丈夫だ」
「友だちが、どんどん行くので、ぼくも思わず急いで行ってしまいました」
「わしは、深い海に慣れているので、心配せんでもいいぞ。あの子についていって
やれ」
「わかりました。何かあったら、すぐにもどってきますから」
オリオンは、くるっと向きを変えると、また下に向った。
そこは、真っ暗で何の音もしない世界が広がっていた。遠くで、クラゲが放つ光が
妖しく光っていた。
シーラじいさんは、その光景をゆっくり感じたかったのか、疲れてきたのか、進む
速度はさらに遅くなった。
やがて、何かが近づいてくるのを感じた。
「シーラじいさん、どうやら着いたようですよ。友だちには、しばらく待っている
ように言ってきました」
オリオンの声は緊張しているようだった。
「よし、わかった」
シーラじいさんも、それ以上言わずに、オリオンのあとを追った。
漆黒の世界の中に、さらに黒々とした影が見えた。
島から、かなり大きな岩が突きでているようだ。食料や安全性からも居心地のいい
場所なのだろう。
近づいてみると、シーラじいさんの国のように、岩が城壁のように、国を囲ってい
た。
「あそこに、友だちがいます」
オリオンは、声を潜めて、シーラじいさんにささやいた。
岩陰で子供が待っていた。
シーラじいさんは、岩の間から、そっと顔を出し、様子をうかがった。
誰かいる気配はない。
「よし、おまえたち、入ってこい」というように、後ろを振りかえった。
シーラじいさんは、自分とオリオンの間に、その子供を入れた。三つの影は静かに
進んだ。
岩の底には、小さな魚やエビのようなものが動いているだけで、だれもいなかっ
た。
やがて、子供は、小さな岩の前で止まった。
そして、「ママ、ママ」と小さな声で呼んだ。
しかし、返事はなかった。
子供は、こっちを振り向いたが、不安そうな顔をしていた。
「ママはいないのかい?」オリオンも小さな声で聞いた。
そのとき、「おまえか」という声が聞こえた。
だれもが凍りついた。「ああ、おじさん、ぼくです。元気でしたか?」
子供は、声のほうに近づいた。
「ああ元気だったか?」
「おじさんも、元気そうで」
どうやら知りあいのようだ。
「ママたちがいないのですが?」子供は、不安そうに聞いた。
「二人とも元気だよ、今食料を探しにいっている。ここらは危険なのでね。もうす
ぐ帰ってくるよ」
「そうでしたか」子供は、安心したように答えた。
「留守の間、お世話かけました」
「お母さんから聞いたけど、おまえこそたいしたものだ。この国をなんとかしなく
ちゃと立ちあがったのだから」
その男は、そう言ってから、シーラじいさんとオリオンを見た。
子供は、二人のことを紹介した。
「そうでしたか。大人がふがいないので、こんなことになってしまって」と、情け
なそうに言った。
「今は、どういう状態ですか」子供は、その男にたずねた。
「あいかわらずさ。いや、もっとひどくなっているかもしれん」
「ちょっと聞いたのじゃが、見知らぬ者が、よからぬ噂を広げているというのは本
当か?」
「はあ、しかし、今は、だれも自分を抑えることができなくなっていて、毎日もめ
ごとばかりで。子供の手前恥かしいことです」
そのとき、「お兄ちゃん!」という声が響いた。
そして、「ああ、おまえ、ちゃんと帰ってきてくれたのね」
子供の倍はあろう思える、母親らしい魚は、その子供に自分の体をくっつけた。
3人は、長い間泣きながら再会をよろこんだ。他の者は、まわりを囲んで見守って
いた。






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