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[2008/03/11] シーラじいさん見聞録 第1章30 

さすがのシーラじいさんも、激しい戦いを終えてばかりなので、興奮していた。
しかも、体がいつも以上に左に傾いていた。
昔、軍隊長をしていたとき、友人を助けようとして、オオダコに左の腹びれをかじ
りとられたところを、またしても傷つけたのかもしれない。
しかし、しばらくして、ようやく我に返ったシーラじいさんは、誰かに、ボスがい
る場所に案内させるべきだとあたりを見まわした。
そして、後ろに、子供がついてきているのがわかった。
「ああ、おまえたちも来ていたのか」と、子供と男に声をかけた。
「こいつは、戦いが始まるとすぐに飛び出していったんです。
わしは、止めようとして追いかけましたが、やつらに囲まれて、見失いました。
しかし、夢中で前に行き、こいつを見つけしたが、大勢の敵に囲まれても、どんど
ん向っていきました」男は興奮して言った。
「そうか。けがはなかったか」シーラじいさんは、その話を聞き、満足そうな顔で
たずねた。
「いや大丈夫です」
「そうでもないようですよ」
その話を聞いていたオリオンは、子供のまわりを回って口を挟んだ。
「きみ、ここがかなりやられているぞ」
そこは、左の腹ビレだった。子供も、激しい攻撃にさらされたようだ。
「でも、ちゃんと泳げるから」子供は、あわてて言った。
「それは心配だ。あとでゆっくり治すさ」シーラじいさんは慰めた。
「ぼく、シーラじいさんと同じところをけがしたんだ」子供は得意そうに言った。
「あはは、きみは、ほんとにのんきだなあ」オリオンは、あきれたように言った。
シーラじいさんは、みんなで戦いを乗りきったことがわかり安心した。そして、気
を引きしめて、取りかこんでいる敵に向っていった。
「誰か、わしらをボスのところまで案内してくれないか」
そのとき、後ろにいた隊長が前に出てきた。
「わたしがお連れします」
言葉遣いは変わっていた。シーラじいさんたちの力を潔く認めたのだろう。
シーラじいさんも、その言葉を聞いて、隊長の前で不動の姿勢をして礼儀を尽くし
た。
そして、「ありがとう」と静かに言った。
隊長は、先頭に立った。
シーラじいさんたちは、両側に並んだ大勢の魚の間を、まっすぐ前を見ながら進ん
だ。
ようやく、岩が切りたった城のような場所に着いた。
隊長は、「少しお待ちください」と言って、奥に入っていった。
しばらくして、隊長の後ろから、一匹の魚があらわれた。
これがボスか。動きは少しおぼつかないが、目はするどく、あたりを威圧してい
た。この国の者や兵士は、じっと見守っていた。
「遠路よく来てくださった」その声は、沈黙の海に響いた。
「ところで、わしらに話があるということのようじゃが」
「そうだ。見たところ、貴殿の国は、何不自由していないようじゃ。それなのに、
よその国に混乱を起こさせ、自分のものにしようとしている」
「そういうことか」
「そういうことは即刻やめてもらいたい」
「わしらにも生きる権利がある」
「それなら、他がどんなに苦しんでもいいのか」、
「ある噂が広がっている」
「どんな?」
「この世は、もうすぐ壊滅的な状態になるという噂じゃ」
「誰が、そんなことを言っているのか?」
「遠くから来て、またどこかに行く者たちが言っている」
「それで、こんなことをしているのか」
「わしらにも、どうすることができない。今できるのは、国を広げることしかでき
ないのだ。犠牲を少なくして、国土を得るためには、ああするしかなかった。
わしらが、遠征でも行けば、留守の間に、どこからか攻められる不安がある」
「しかし、そのために、迷惑を受けている国がある」
「わかった。もう二度と行かないことを約束する」
ボスは、頭を下げた。もうこれ以上言うことはないので、シーラじいさんたちは引
きあげることにした。
すぐに子供の親たちは待っている国に帰った。
男はすぐに話をした。
大勢の魚が集まってきた。「ありがとうございます」、「これで、また平和な国に
もどれる」という声があちこちで聞こえた。
2匹の魚が前に出て、深く頭を下げた。「お互いが疑心暗鬼になっていたので、ど
うすることもできなかった。もう一度やりなおします」
「これからは、みんなを幸福にするようにな。それじゃ、わしらはお暇(いとま)
しますぞ」シーラじいさんは、みんなに囲まれて挨拶をした。
泳ぎだしたとき、子供もついてきていた。
「今度はだめだ。お前はここに残れ。オリオンの家族を見つけなければならない。
おまえも、家族とはなればなれになった気持ちはわかるだろう。
それに、いつ、また、どんな敵がくるかもわからない。おまえは、ここに残って、
みんなを助けるんだ。」
子供は、悲しそうな顔になった。
「オリオンが家族と会えたら、また、ここに来ることもあるだろう。そのときまで
に、オリオンに負けないほど立派な青年になっておけ」
オリオンのやさしそうな顔にも涙が浮かんだ。
「お前は、大勢の敵に囲まれても、逃げずに、堂々と向っていった。この国には、
おまえが必要なんだ。もちろん、ママと妹にもな」
シーラじいさんは、子供の顔をじっと見た。子供はうなずいた。
「お前に名前をつけてやろう。そうだ。ペルセウスにしよう。これはオリオンと同
じように、空に輝く星になっている。
メデューサという怪物をやっつけた英雄だ。お前こそペルセウスにふさわしい。朝
早く光りかがやく星を見れば、おまえの元気な姿を思いうかべよう」
シーラじいさんとオリオンは離れていった。子供は、母親と妹のそばで、小さくな
っていく二つの影を、じっと見守った。





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