[2008/03/17] シーラじいさん見聞録 第1章31
しばらくしてオリオンは、後ろを振りかえった。
そこには、いつもの暗闇が広がっているだけで、見送ってくれた者たちの姿はどこ
にもなかった。
オリオンは、みんなの顔を思いうかべた。すると、泣き声や笑い声がどっと聞こえ
てきた。
もう一度振りかえったが、暗闇は、オリオンの感傷など受けつけようとしなかっ
た。
「ペリセウスは、かなりけがをしていたようですが」オリオンは、悲しそうな声で
言った。
「後遺症が残るとしても、まだ子供だからちゃんとやっていけるだろう」シーラじ
いさんは、あっさり答えた。
「でも、ペリセウスは淋しそうでしたね」
「仕方がない。いつかは別れなければならないのだから」
オリオンは、しばらく黙っていたが、「別れるということは淋しいですね」と続け
た。
「そうだな」
「ぼく、ペリセウスを連れていってはいけませんかとシーラじいさんに頼もうと思
ったんです」オリオンは、執拗に自分の思いを伝えた。
「うむ、わしも、一瞬そう思った。この世界での出会いは奇跡のようなものだ。
少なくともわしとはもう会うことはないだろう。あの国も、しばらくは静かだろう
から、今のうちに武者修行させるのも悪くないかなとな」
「武者修行?」
「世界を見てまわって、よその国を見、自分以外の者を知ることだ。
そうすることによって、自分を成長させることができる」
「そうですか。それなら、今からペリセウスを呼びにいきましょう」
「いや、ペリセウスは多くのことを見てきた。自分の国のことで、大人や自分につ
いて多くのことを学んできている」
「それにしても、やつらは、激しく責めてきましたね」オリオンは、話をやめよう
としない。
「あれは勢いで、ああなったが、おまえには気の毒なことをした」
「いや、あんなに大勢の敵に囲まれたことはなかったので、弱気を見せないように
無我夢中で向っていきました」
「争いごとはなるべく避けなければならない。今度のことはわしが悪い。
話しあうようにもっていけたはずだ。敵とはいえ、多くの者が死んだり傷ついたり
してしまった」
「あいつらが、話を聞こうとしないのですから」
「それはそうだが、あれで、また、新しい恨みなどが生まれないか心配だ」
「はあ、でも、あのことはほんとでしょうか」
「あのこと?」
「やつらは、この世が壊滅すると言っていましたが」
「さあな。噂というものは、広がるごとに大きくなっていくものだからな」
「ぼくらの世界が壊れるなんて」
「しかし、わしらの世界が、今まで大きく変わってきたことはまちがいない」
「ほんとですか!」
「そうだ。わしらの祖先が生まれる前からも、生まれてからも、突然世界が持ち上
がり、ひっくりかえるということを続けてきた」
「なぜそんなことが起きるのですか?」
「世界の下は、とても熱くて、あらゆるものがどろどろに溶けていると言われてい
る。
そして、何万年もすると、融けているものが、何かのきっかけで吹きあがる。
それは、ものすごい勢いなので、わしらの世界を粉々にするということだ」
「それで、どうなるのですか?」オリオンは、身を乗り出して聞いてきた。
「吹きあがったものは、やがて冷えて、陸になる。
「陸?」
わしらが住んでいるのとは違うが、同じ生き物が住んでいる世界だ。
「どんな?」
「ニンゲンなどだ」
「ニンゲン?」
「海の上を、動物ではない何か動いているだろう。また、空を、鳥ではない何かが
とんでいるだろう。あれを作ったのがニンゲンだ」
「それじゃ、ニンゲンは、魚ではないのに海を泳ぎ、鳥ではないのに空を飛べるの
ですか」
「そういうことになる」
「ニンゲンは、世界で一番頭がいいのですね!」
「ニンゲンは、自分たちのことをそう思っている。しかし、知能を発達させてすぎ
て、困ったこともあるらしい」
「そうなんですか」
「おまえは、そのニンゲンと親戚になるということだ」
「えっ、ほんとですか?」
「それ以上のことは、わしもわからんが。今おまえに必要なものは、家族の愛情
だ。すぐに探しにいこう」
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