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[2008/03/25] シーラじいさん見聞録 第1章32 

シーラじいさんは、オリオンの話をさえぎり、先を急いだ。
オリオンの子供らしい興味にできるだけ答えてやりたかったが、今は、次のことに
かからなければならないからだ。
つまり、早くオリオンを、家族の元に戻さなければならないのだ。
暗闇は、段々薄くなっていき、あたりの景色は影絵のように見えてきた。多くの魚
がのんびり泳いでいた。
シーラじいさんとオリオンは、そのまま海面に向った。
シーラじいさんは、突然頭がくらくらし、目も開けられなくなった。水圧が急に変
わっただけではない。何かとてつもないものが襲ってきたように感じた。
あわてて潜ってから、体を建てなおして、見上げたが、誰も来る様子はない。
まわりを見ると、オリオンがいない。
すぐに上に向うと、無数の光が、生き物のように踊っているのだった。まるで海が
光でできているようだった。
空を見上げると、真っ青な空に白い雲が広がり、眩しく輝いていた。
どこかで、鳥の鳴き声が聞こえた。何という美しい風景だろう。こんな風景に包ま
れていれば、どんな者の心にも邪8よこし)まな考えなど浮かばないだろう。
もし浮かんでも、それを恥ずかしく思い、すぐさま忘れようとするだろう。
闇は、静謐(せいひつ)と安穏をもたらすが、光は、克己と喜悦を与えてくれるの
だ。
シーラじいさんは、目をしょぼつかせて、そう考えた。
そのとき、オリオンが、何事もなかったように帰ってきた。オリオンも、満ちたり
た表情をしていた。
あの戦いの前後にも、海面に来たはずだが、風景を味わう余裕などなかっただろ
う。

ペリセウスの国にいたことは、遠い昔のように感じられた。あいつを、ここへ連れ
てきていたら、どんなに喜んだことだろう。
しかし、ペルセウスには、憎悪や諦念に満ちた国を立てなおさなければならないの
だ。
勇敢な青年になって、きっとそうしてくれるのにちがいない。
シーラじいさんは、オリオンに声をかけた。
「オリオン、おまえを探している家族が近くにいるかもしれない。よく見るんだ
よ」
オリオンは、何度も大きく飛びあがり、体を回した。
「あちこちで飛びあがっている者がいる」
「それじゃ、そっちに行こう。何かわかるかもしれない」
そのとき、「こんにちは」という声が聞こえた。
「こんにちは」オリオンも、返事をして、声の方を見ると、同い年ぐらいのイルカ
がオリオンを見ていた。
「1人なの?」
「いや、シーラじいさんといっしょだよ」オリオンは、シーラじいさんの方に顔を
曲げた。
そのイルカの子供は、シーラじいさんを見て、驚いた顔をした。どう見ても自分の
仲間ではなく、しかも、としよりの魚だったからだ。
「いや、パパやママはいないの?」
「うん、パパやママとはぐれてしまったので、シーラじいさんに探してもらってい
るんだ」
「それは困ったことだな」
「きみも、一人かい?」
「ちがうよ。みんなと遊んでいるんだ」
しばらくすると、4,5匹のイルカが来た。友だちのようだ。
「どうしたんだい?」
オリオンが、事情を話すと、「それじゃ、僕らの方へ来ないか」と誘ってきた。
オリオンは、シーラじいさんを見た。
「そうしなさい」シーラじいさんは、すぐに言った。
「シーラじいさんは来ないの?」
「おまえたちの足手まといになるから、ここにいるよ」
「でも・・・」
「わしは、疲れたから、ここでしばらく休みたい。家族が見つかったら、教えてく
れ。挨拶をしてから、国に帰るつもりだ」
「絶対だね」
「そうだ。早く行きなさい」
「そうだよ。行こう、行こう」みんなは、オリオンを急かせた。
オリオンは、振りかえりながらついていった。
シーラじいさんは、200メートルほどもぐって、格好の岩場を見つけた。
そこで、体を休めると、空腹のはずなのに、疲れが一気に押しよせてきて身動きせ
ずに眠った。
4,5日して、ようやく目が覚めると、キリキリという音がしているのがわかっ
た。
あれは、オリオンが出しているのだということがすぐにわかった。

シーラじいさんは、岩場を出て、ゆっくり音の方へ向った。
オリオンも、すぐにシーラじいさんがわかった。
「おお、オリオン、どうだった?」
「おじさんが、みんなに聞いてくれているんだ」
「そうか。出会えればいいな」
「子供を探している家族がいたという情報もあるようなんだ」
「すごいじゃないか」
「ぼく、ニンゲンを近くで見たよ。自分たちが発明した船に乗って、ぼくらの近く
まで来るんだ。
友だちと、船に並んだり、船の前を泳いだりすると、連中は、歓声を上げて喜ぶん
ですよ」
「そうか、よかった」
「でも、ニンゲンは、ぼくらと親戚と聞いていたけど、泳ぐのには苦手のようです
ね」
「そうだろう。ずっと陸に住んでいるからな」
「でも、やさしそうでした」
「あまり近づきすぎないようにしろよ。わしも、ニンゲンの性格はよくわからない
からな」
「気をつけます。それじゃ、おじさんが、何か聞いているかもしれないので、また
行ってきます」
「そうしなさい、そうしなさい」
オリオンは、目を輝かせて話をしたな。これで大丈夫だろう。
シーラじいさんは安心すると、また眠ってしまった。





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