[2008/05/27] シーラじいさん見聞録 第1章41
「これは縁起がいいぞ」シーラじいさんも大きな声で言った。
「でも、ぼくは願いごとを言っていない」オリオンは、泣きそうな声で言った。
「オリオン、心配しなくもいい。心の声は言葉にしなくても伝わるものじゃ」
オリオンは、少し安心したようにうなずいた。
「それに、流れ星は、毎晩何十個と見ることができる。言葉にするのはいつでもで
きる。それじゃ、用意しよう」
「どうするのですか」オリオンは、少し緊張した顔で聞いた。
「ジム、ありったけのロープを結んで一本にしてくれ」
「OK」
ジムは、手探りでロープをさがした。10分ほどしてから、「できました」と叫ん
だ。
「よし、そうしたら、両端を両脇にある金具に結ぶんだ。できたら、こっちへ投げ
てくれ」
ジムは、シーラじいさんの言うとおりにロープを結び、海に投こんだ。
「オリオン、そのロープの中に入って、それをくわえろ。そして、そのままボート
を引っぱられるかどうか試してくれ」
オリオンは、ロープの下に潜り、口を大きく広げて、ロープをくわえた。
おそるおそる前に進んだが、すぐにやめた。
「どうした?」
「ロープを奥まで入れると、口に当たって痛いです」
「それじゃ、ジムに言って、尾びれのところで結ぶようにしようか」
「いえ、もう少しくわえ方を工夫してみます。
それから何回もやりなおして、ようやく「大丈夫です」と笑顔で答えた。
「それじゃ出発!」シーラじいさんは、力強く言った。
オリオンとジムも、「出発!」と応じた。
オリオンは動きだした。ジムが乗っているボートも進みだした。
シーラじいさんは、ボートの横を泳いだが、オリオンの泳ぎが早いので、遅れ気味
だった。
「おーい、オリオン、そんなに早く行くのではない。先は長いのだから」と叫んだ
が、オリオンは、無我夢中で泳いで、ずっと遠くまで行ってしまった。
しかし、オリオンは、我に返ると、シーラじいさんがいないことに気がつき、あわ
てて戻ってくることがわかっていたので、迷ってしまうことはなかった。
その間、木などが海に浮かんでいれば、それを拾って、ジムに渡した。直射日光
は、ジムに相当こたえているようなので、それで屋根を拵えるのだ。
そんなふうにして、2,3日過ぎた。さすがにオリオンも疲れてきた。
体の動きが鈍くなってきて、言葉数も少なくなってきた。
ジムも、それを見かねて、「オリオン、そんなに無理をしなくていいよ」と声をか
けた。
シーラじいさんは、その夜は休むことに決めた。
食事の後、3人で話をした。
「ここは広いですね」と、オリオンが言った。
「わしらが住んでいる海は、インド洋というんだ。世界には、太平洋、大西洋な
ど、もっと広い海があるぞ」
「それは、どこにあるのですか?」
「インド洋の隣にある」
「どうして行けるのですか?」
「世界には海は一つしかない。場所によって名前をつけているだけじゃ」
「名前があるほうが、便利からですか?」
「そのとおりじゃ」
「オリオンは、頭がいいなあ!」ジムは感嘆の声を上げた。
「いや、シーラじいさんが、みんな教えてくれたんですよ。シーラじいさんは、ニ
ンゲンが書いた物も読めるんです」と胸を張った。
「ほんとですか?」
「いや、見よう見まねでな」シーラじいさんは照れた。
「信じられない」ジムは首を振った。
「わしらは、元々深い海でのんびり生きているので、何もすることがなくてな、そ
れで、暇つぶしのようなもんさ」
「どこかちがう世界に来たようだ」ジムは、まだ首を振っていた。
「もう少し北に行けば、モンスーンという風が吹いておる。
今は、夏なので、南西から北東の風が吹いているはずじゃ。それをうまく利用した
ら、オリオンも、少しは楽になる」
「どうしてですか?」オリオンは、体を乗りだしてたずねた。
風が、海流というものを作る。風に、波が流されるのじゃな。それに乗れば、自然
と進む。
あとは、星を見ながら方角を間違わないようにするだけじゃ」
「ヨットも、うまく風を捕まえたら、早く進むのだ」ジムも言った。
満天の星の下で、3人の話は続いた。
少し話が途切れたとき、ジムが思いきってというように、シーラじいさんとオリオ
ンに聞いた。
「二人は、なぜ一緒にいるのですか。生まれも育ちも、そして、年令もちがってい
るようですが」
「わっははは。不思議じゃろ。わしらも、そう思っているんじゃ」
シーラじいさんは、そういう言うと、今までのことを話しはじめた。
ジムは、シーラじいさんの話を聞くと、「おれも、一人ぼっちなんだ」と言った。
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