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[2008/06/03] シーラじいさん見聞録 第1章42 

「えっ、親兄弟はどうした?」シーラじいさんは、驚いて聞いた。
「そんなものいません」
「死んでしまったのか」
「生きているかもしれませんが」
「おまえも探しているのか?」
「探してなどいません」
「どうしたんだ?」
「おれが、5、6才の頃、おやじは殺されたんです。そういう仲間に入っていたか
らね。
お袋とおれと弟二人が残されたんです。
お袋は、仕事をしながら、おれたちを育てるのが嫌になったんでしょう。
1年ほどした、ある日、おれが、家に帰ると、テーブルの上に少しのお金とメモが
あった。
メモには、『ママは、用事で出かけるけれど、困ったことがあったら、叔母さんに
電話するように』と書いてあった。
叔母さんだって、主人が病気がちなので、イーストエンドで八百屋をしながら、5
人の子供を育てていることを知っていたんで、電話をかけなかった」
「それでどうしたんだ?」
「やがて、近所の人がおれたちのことを知って、市に連絡をしてくれた。
しばらくして、弟二人は、どこかにもらわれていった。
しかし、おれは、もらい手がなくて、施設に預けられた。
そこに、10才までいたけど、毎日同じ生活だったので、仲間と逃げた。
街をうろうろしていたけど、『類は友を呼ぶ』ということで、悪いことがしたくて
たまらん連中がどんどん集まってきた。
おれも、かっぱらいで、何度か捕まったが、その度に、施設に連れもどされたけ
ど、18才になると、誰も心配しなくなった。
そうなれば、お決まりのコースで、もっと悪いことする連中と知りあいになって、
今ここにいるというわけです」
「その後、ママはどうしたんだい?」
「誰かと結婚して、おれを引きとりたいという連絡を施設にしたようですが、その
とき、おれは長期出張でいなかったんです。あはは。もう手遅れです」
ジムは、自嘲気味に笑った。
「おまえは、何才だ?」
「24才」
「何を言っている」
「おれはわかっているんです」
「何を?」
「シーラじいさん、学校ってわかりますか?」と聞いた。
「勉強する場所だろう。わしは軍隊の学校へ行ったことがある」
「おれは、どこでも転校生のような気がするんです」
「どういう意味だ?」
「おれは、どこでも仲間はずれになるんです」
「転校生は、最初はそんなものだろう。わしらには経験がないが」
「でも、すぐに友だちになる子供もいるじゃないですか。おれは、ずっと仲間はず
れなんです」
「おまえから、友だちになったらいいのだ」
「おれが近づくと、みんなどこかへ行ってしまう」
「そんなこと気にするな」
「いや、みんなの目を見りゃわかる。今だって、おれはシーラじいさんやオリオン
の邪魔をしているんだ」
「オリオンはがそう思っているのなら、こんな苦労をしていないぞ」
ジムは、それには答えず、「おれがいなけりゃ、オリオンは、もう家族に会えてい
たかもしれないんだ」と言った。
「おまえだって、仲間ともうすぐ会えるじゃないか」シーラじいさんは、ジムを励
ました。
今まで黙って聞いていたオリオンが、「昼間も動くのはどうでしょうか」と、シー
ラじいさんに言った。
「それはだめだ。おまえは、相当疲れている。
暑いときにボートを引っぱると、さらに体力が落ちる。もし動けなくなると、どん
な敵があらわれるかわからん」
シーラじいさんは、オリオンの提案を一蹴した。
「人間は、いや、どんな生物でも、いつも誰かを探しているものですか」ジムは、
思いつめように言った。
「そうかもしれないな。わしらが探している者も、また誰かを探している。お互い
が、お互いを探しているのが一番いいが。
おまえのママも、何か探したくなったんじゃろ。しかし、今は、おまえを探してい
るかもしれないぞ。おまえが、ママを探したくなっているようにな」
「でも、こんな広い海で助かる気がしない」
「何を言っている。仲間が、おまえを探しているはずだ。
それに、漁船と出くわすかもしれないし、潜水艦がひょっこり顔を出すともかぎら
ない。絶対あきらめるな」
「生き残っても、何の意味があるんだ」
「おまえはまだ若い。今何をしているのか知らないが、やりなおすことはいくらで
もできる。
自分がどうなりたいかを考えとけ。そうすれば、おまえは、自分を救うことができ
る。
ジム、それだけは忘れるな」
ジムは、シーラじいさんの言葉にうなづいた。
「それじゃ、『おれは、ここにいるぞ』と見せつけてやれ」
ジムは、屋根の上に、自分のシャツをくくりつけた。




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