[2008/06/10] シーラじいさん見聞録 第1章43
「それじゃ、行こう」
シーラじいさんは、大きな声で叫んだ。
オリオンとジムも、シーラじいさんに負けないほど大きな声で、「行こう、行こ
う」と叫んだ。
ゆっくり話をしたことで、みんな元気を取りもどしたようだ。
空には、いつものように無数の星が輝いていた。流れ星も見えた。
オリオンは、ロープをくわえて動きだした。それに連れて、黒々としたボートも進
みだした。
ボートの上では、ジムが、あたりを見まわしていることだろう。
ボートの横につきながら、シーラじいさんは、そう思った。
とにかく北に向って進むのだ。ジムの仲間と会えなくても、誰かに救助してもらえ
る。
ジムには、何か事情がありそうだが、とりあえず国に帰ることはできるだろう。
2,3日は何も変わらなかった。
オリオンは、だんだん疲れてきた。ジムも、それがわかったのだろう。
「シーラじいさん、オリオンをやめさせてもらえないか。このままじゃオリオンの
体がもたない。
ここまで来たら、自分で何とかできるから」と頼んできた。
それを聞いたオリオンは、「ぼくは大丈夫です。でも、不思議な音が聞こえます」
「えっ、どんな音だ?」シーラじいさんとジムは、同時に聞いた。
「ダッ、ダッ、ダッというような、かすかな音なんです。
しかし、その音が、大きくなるかと思えば、小さくなってしまうときもあります。
全く聞こえないときもあります」
シーラじいさんもジムも、耳を澄ませたが、何も聞こえない。
オリオンにとっても、それは信号として感知されるだけなのだ。
「ジムを探しにきている船ならいいがな」シーラじいさんはつぶやいた。
「ぼくが知らない生き物が、食料を探しているだけかもしれませんが」オリオン
は、確信が持てないといったふうに言った。
ジムは黙っていた。
「今はどうだ?」
「今は、何も感じません」
「そうか。感じるようになったら、そっちへ向おう」シーラじいさんは決断した。
「わかりました」
その後、オリオンは、「今、また音がしはじめました」と叫んだ。
「よし、おまえに任せたぞ」シーラじいさんは大きな声で言った。
オリオンは、やや東よりの方向に向った。
音は、やはり大きくなったり、小さくなったりしていたようだ。
また、全く聞こえなくなる時があり、オリオンは、泣きそうな声で、「どうしまし
ょうか?」とシーラじいさんに聞いた。
「心配するな。いずれ、また聞こえるようになる。そのときに、そっちへ行けばい
いのだ」とオリオンを励ました。
次の日、音は今まで以上に大きくなった。
オリオンは、時々、ロープの外に出て、ジャンプを何回かした。
「シーラじいさん!」オリオンは叫んだ。
「どうしたんだ?」シーラじいさんは、オリオンのそばへ近寄った。
「向こうから灯りが近づいてきます」オリオンは、興奮気味に言った。
「本当か?」
「最初星かと思っていたのですが、だんだん大きくなってきているのです」
「ジム、運が向いてきたぞ」シーラじいさんは、ジムに声をかけた。
「いや、おれにはまだ見えないが、そうならこんなうれしいことありません」
「よし、急ごう」
オリオンは、またボートを動かした。
オリオンは、またジャンプした。「かなり大きくなってきています。船にまちがい
ないようです」
「よし、どんどん行こう。でも、大きな船かもしれないから、ぶつからないように
しろよ」
シーラじいさんの指示を仰ぎながら、オリオンは進んだ。
「シーラじいさん、おれにも見えるようになりました」ジムも大きな声で言った。
灯りは、大きくなってきた。やがて、巨大な影も見えてきた。しかし貨物船ほどは
ないようだ。
灯りは、船の上にあるだけでなく、船の舳先(へさき)から、海に向っていた。し
かも、それが、めまぐるしく動いていた。波を切る音もしだした。
このままでは、船が起こす波によって、ボートが転覆するかもしれないと思い、シ
ーラじいさんは、オリオンに、急いで、左に行くように命じた。
船は、そんなにスピードは出ていなかったが、やがてボートを追いこした。
昼間のような光が海を照らしだしていた。
「オリオン、あの船の横っ腹につけろ。あの光の中に入れば、相手は気がつくだろ
う」
オリオンは、ぐっと力を入れ、船を追いかけた。
「ジム、もうすぐだ。近づいたら、服を振ったり、大きな声を出すんだ」
やがて、ボートは、船のすぐそばまで近づいた。
「オーい、助けてくれ」ジムは、声をかぎりに叫びつづけた。
シーラじいさんは、小さくなっていく船を見ながら、だめだったかと思った。
オリオンやジムのほうへ進んでいくと、船の灯りが、少しずつ大きくなっていくの
がわかった。
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