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[2008/07/02] シーラじいさん見聞録 第1章46 

「オリオン、急げ」シーラじいさんはきっぱりとした声で言った。
しかし、オリオンは、「シーラじいさん、大丈夫でしょうか?」と心細い声で聞い
た。
「ああ、大丈夫だ。信じなければ前に進めない」
「必ずまた会えますね」
「会える。わしは、このあたりにいるから、元気になったら、星を見ながら帰って
こい」
二人は、船の近くまで行った。
ジムは、オリオンを見つけたのかデッキから叫びはじめた。
「オリオン、シーラじいさんから聞いたと思うけど、おれについて来てくれ。
シーラじいさんは、おまえが元通りの体になって帰ってくるのを待っていてくれる
だろう」
オリオンは、了解したというようにジャンプした。
そこに、トムとマイクがデッキに出てきた。
「彼がオリオンだ」ジムは、二人に紹介した。
「「確かに背びれがなくなっているようだな」トムは言った。
「あれは、何の役目をしているんだ?」とマイクが聞いた。
「向きを変えたり、体のバランスを取ったりするためじゃないか」
「そうか。このままじゃたいへんだろう」
ジムは、二人がようやくオリオンのことを理解してくれたように感じて、また大き
な声で叫んだ。
「オリオン、おまえを連れていってくれるトムとマイクだ。何か挨拶をしてくれ」
オリオンは、飛び上がり、頭を礼をする格好をした。しかし、何もしゃべらなかっ
た。シーラじいさんの言いつけを守ったのだ。
トムとマイクは顔を見合わせて、にやりと笑った。しかし、ジムには何も言わず、
オリオンのほうに向って、「よろしくな」と挨拶をした。
「ジム、校長先生はいないのか」とマイクが尋ねた。
「近くにいるはずだが、あまり海面には上がってこない」
トムは、話をさえぎり、「それじゃ出発するぞ」と、操縦室へ急いだ。マイクが後
に続いた。
やがて、エンジンがかかり、船は小刻みに震えだした。
ジムは、「シーラじいさん、ありがとう。オリオンは、おれが必ず面倒を見ます。
さようなら」
船は動きだした。
オリオンは、キュー、キューと声を上げた。
そして、船からかなり離れたところにいたシーラじいさんを探した。
「オリオン、船は動き出したぞ。早くいけ」シーラじいさんは叫んだ。
「シーラじいさん、待っていてください」
「わかっておる」
オリオンの目に涙がいっぱいたまっているのを見て、別れが辛くなってきたが、声
をふりしぼった。
オリオンは、船の横を泳いでいった。船はだんだんスピードを上げた。
ジムは、シーラじいさんのほうを見ながら、手を振っていた。
船は、青い空と海の間に吸いこまれるように小さくなっていった。
シーラじいさんは、いつまでも動かずにいた。やがて、船は見えなくなった。
船が見えなくなっても、まだそこにいた。
やがて、空と海に薄暗い影が入りだした。
すると、シーラじいさんは我に返ったようにあたりを見まわした。
わしもしっかりしなくちゃと思い、どこかゆっくりできる場所を探そうとした。
しかし、海面にじっとしていたためか、体のあちこちが痛み、息苦しくなってい
た。
体を動かすことができなくなっていた。
このままだと、オリオンを襲ったようなサメに見つかるかもしれない、いや、それ
より先に死んでしまうだろうとあせった。
1枚はなくなっているが、7枚のひれを動かそうとした。
しかし、どこに、どのように力を入れたらいいのかわからなくなっていた。
空と海は闇に包まれ、幾千、幾万の星が輝きだしていた。無数の星一つ一つが溶け
だし、大きな星になってきた。
不覚にも涙があふれていたのだ。いよいよかと観念をしたとき、尾びれがピクッと
動いた。
そして、残りのひれに全神経を向けると、1枚、1枚と動くようになった。
シーラじいさんは、休む間もなく、その勢いで海の奥をめざした。しかし、その近
辺は深い海が広がっているようで、なかなか海底につかなかった。
長い間、さまよった末にようやく海底火山のような場所を見つけた。
シーラじいさんは疲労困憊していて、安全な場所を探す余裕はなかった。腹が岩に
当たるやいなや眠りについた。
3日間眠りつづけた。その後もうつらうつらしたが、ときおりハッと目が覚めるこ
とがあった。
そんなときは、オリオンのことが頭をよぎり、不安な気持ちが胸を締めつけた。
あんなことをさせたが、オリオンにとって幸せだったのか、
確かにニンゲンがイルカやゾウを助ける話を読んだことがあるが、
それは、ニンゲンの都合だけのことではなかったか、つまり、ニンゲンがニンゲン
を意識してそういう茶番劇をしたのではないか。
しかし、イルカにひれを作ったり、ゾウの義足を作るのは、ニンゲンしかできない
技術だが・・・。
とにかく、ジムがいるかぎり、オリオンが水族館に売られていくことはあるまい。
わしは、オリオンに、「信じなければ次のことができない」と言った。
まず、わしがそうしなければ、オリオンにため何もしてやれない。
そう納得したシーラじいさんは、ようやく外を見る気持ちになった。
ゆっくり浮かびあがった。海面に近づくにつれ、太陽の光が眩しく目を開けておれ
ないほどだった。
オリオンやジムと別れた場所に来てみると、二人は、今どうしているのだろうかと
考えた。
ジムが動物専門の医者を探して、オリオンをそこに連れていっていればいいが。
そのとき、遠くで、何かが揺れているのが見えた。




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