育児と介護に不安はありませんか?お悩みを解決します。 サイトマップ
インデックスページへ戻る
会社案内
掲示板
メールマガジンへ登録
メールマガジンのバックナンバー
お問い合わせ
メールマガジンバックナンバー

[2008/07/16] シーラじいさん見聞録 第1章48 

シーラじいさんは、ニンゲンの死体から離れた。
あいつらが、ジムを殺したのなら、オリオンのことなど眼中になく、すぐに船の速
度を上げたにちがいない。
オリオンは、ジムが殺されたことを知らないまま、速度を上げる船についていこう
として無理をしただろう。
自分が弱音を吐くと、ジムに迷惑がかかると思ったはずだ。ああ、オリオン、どん
なに苦しかっただろう。
わしは、なんてことをしてしまったんだ。自分の手に負えないことを他人に押しつ
けてしまったのだ。それも、もう一つよくわからないニンゲンにだ。
役立たずのとしよりが、将来ある若者を傷つけてしまった。
シーラじいさんは、そう思うと、いても立ってもおられなくなった。
オリオンが向かった方を見ても、真っ青な海が広がっているだけだった。ときおり
遠くで鳥が飛んでいる以外動くものはなかった。
昼は方向がわかるものがなかったが、じっとしておれなかったので、少し潜って泳
ぐことにした。
夕方、星が輝きだすと、方向を確認した。しかし、船がどの方角に向ったかはわか
らないので、そこを基点に両側を探した。
しかし、夜は月の光があるとはいえ、ほとんど見えなかったので、「オリオン」と
叫びつづけた。
しかし、シーラじいさんの声は、暗闇の中に吸いこまれるばかりだった。
ある朝、数百メートル先に何か見えた。ひょっとしてオリオンかと思い急いだ。
しかし、オリオンより小さいものだ。さらに近づくと、以前見たことがあるものだ
った。
鞄だ。ニンゲンが服や書類などを入れるものだ。
わしらは、何千年もの間、つまりニンゲンが文明を作って以来、ニンゲンが落とし
た鞄を開け中身を調べてきた。
沈んでしまわないうちに調べようと、ファスナーの引手を口でくわえて、引っぱろ
うとしたが、うまくいかなかった。
国にいたときは、誰かが岩などに鞄を押さえつけ、誰かがファスナーを引っぱれ
ば、
簡単に開いたが、今は、1人でやらなくてはいけない上に、硬いものがないので、
力が加わらないのだ。
それで、ファスナーの引手を口にくわえたまま、早く泳いで力を入れることにし
た。
これも、なかなかうまくいかなかったが、ようやく少し開いた。
しかし、ゆっくりしておれば、そこから水が入り沈んでしまうので、休まず引っぱ
った。
半分ほど開いたので、中に顔を突っ込んで、中の物を急いで外に出した。
書類が海に広がった。その中に、写真があった。
自分の家か、瀟洒な建物の前で、4人のニンゲンが写っていた。
二人は、40才前後の男と女で、その前には、14,5才の女の子と、10才ぐら
いの男の子だった。
きっと家族の写真だろう。
ニンゲンは、必ず家族の写真を鞄に入れている。わしらは、それはとてもうらやま
しく思ったものだ。
シーラじいさんは、自分の子供のことを思いだした。
長男のアルカディアは、親の言うことを聞かない子供だった。
特にわしの場合は、軍隊を率いていたので、家に帰ることが少なかったので、余計
に反発したのだろう。
ツーラとは、いつも長男のことで言いあらそいをしたものだ。アーサーの子供のオ
ーショネッシーが軍隊に志願してきたので、わしも、余計にあせってしまった。
しかし、なぜかマウとアルカディアは、親のわしが嫉妬するぐらい仲がよかった。
ほんとの親子じゃないかと疑ったものだ。うっふっふ。
それが、「パパ、ぼくもパパのように立派な兵隊になるよ」と軍隊に入ってきた。
わしは、ほんとにうれしかった。父親の権威を見せつけられると思ったものじゃ。
ツーラは不満じゃったようだが。
ところが入隊して半年も立たないうちに、起きることができなくなり、死んでしま
った。
やはり軍隊生活は性に合わなかったかもしれん。わしのために志願をしたばっかり
に、不幸な人生を送らなければならなかった。
あの時は、マウも悲しんでくれた。
ツーラも、アルカディアも、他の子供も全部死んだ。マウもそうだろう。わしが生
きている理由がない。
ところで、この写真にうつっている父親らしき男はジムではない。
ジムは、こんな顔じゃなかったし、まだ24才と言っていた。
それじゃ、このカバンの持ち主は、あの死体のニンゲンか。
何か手がかりがないかと思って、海にちらばっている書類を見た。
一枚の紙に、英文で、「ICPP第4次統合報告書」と書かれていた。
シーラじいさんは、それを読みはじめた。
地球温暖化や温室効果ガスなどがキーワードと読みとれた。
そして、読みすすむにつれて、幾度となく出てくる地球や人間という言葉は、
わしらが住んでいる地球とは違うものであり、人間も、わしらが知っているジムと
はちがう生き物なのかと訝った。
なぜなら、この報告書には、今後、気温も海温も高くなり、20〜30%の動植物
が絶滅する恐れがあると書いてあるが、
今見るかぎり海はあくまで青く、何事も変わったことがないからだ。
また、別の書類には、このままでは、わしとオリオンが出あったサンゴ礁にも大き
な影響が出るとある。
それを見るかぎり、この報告はわしが今いる地球のことであり、海のことなのか。
そう思いをめぐらしていると、鞄はいつのまにか沈んでいた。





ページのTopへ
Copyright (c) 2004 MAM CORPORATION All rights reserved.